第73話 右の方が気持ちいい?
「あーっ! 先輩! なんでそんなに強いんですか! これやるの初めてですよね!?」
腕の中にいる栞が、文句を言いながら飛び跳ねる。そのせいで少しテレビの画面が見えにくくなってしまったけれど、問題なく勝利することができた。
私達が今やっているゲームは、人気キャラクターのゲームだ。複数の種類のミニゲームがあって、一勝負ごとに三ゲームの合計スコアを競う。
ストーリーがないからそれほど集中する必要がないし、話しながら遊ぶのにはぴったりなゲームだ。
「また負けた……! 先輩、上達するの早すぎません!? やっぱり頭がいい人ってゲームも得意なんですかっ!?」
振り向いて、栞は拗ねるように唇を尖らせた。つい、その唇にキスをしてしまう。
「……先輩」
「なに?」
「キスすれば、私がすぐご機嫌になるって思ってません?」
「違うよ。ただ、私がしたくなっただけ」
コントローラーを横に置いて、栞の頭を撫でる。気持ちよさそうに目を細めた栞も、コントローラーを放置して私の手を握った。
「先輩。お家デート、楽しいですか?」
「うん、楽しいよ」
「私といちゃいちゃできるから?」
にこにこと笑う栞は本当に可愛らしい。うん、と素直に頷けば、栞はさらに機嫌をよくした。
「じゃあ先輩、これ、触ります?」
恥ずかしそうな表情で、栞は自分の胸を指差した。
「……いいの?」
「いいですよ。でも、まだちょっぴり恥ずかしいので、服は脱がせないでください」
「分かった」
「ちなみに、服の中に手を入れるのはありです」
なにそれ。逆にそっちの方が、えっちじゃない?
「……それ、上から? 下から?」
「どっちでも。先輩が好きなように」
深呼吸をして、私は上から手を突っ込んだ。せっかく今日の栞はオフショルを着てくれたのだから、上から攻めるのが礼儀だと思って。
谷間の中に手を突っ込んで、栞の胸をゆっくりと揉んでいく。最初は右。次は左。
栞は唇を噛んで、ぎゅっと目を閉じている。私としては、存分に声を出してくれて構わないのに。
「栞」
「な、なんですか」
「もしかして、右の方が気持ちいい?」
「……へっ!?」
目を開けた栞は真っ赤になって、私から離れてしまった。もう少し触っていたかったのに。
「なに言ってるんですか夏鈴先輩」
「表情的に、そうかなって」
「……夏鈴先輩のえっち」
「うん」
溜息を吐くと、栞は私の肩に頭を乗せてきた。えっちなことをしても言っても、こうして栞は変わらず甘えてくれる。
私のことをちゃんと受け入れてくれているのが伝わってきて、嬉しい。
「……さ、さっきの……正解です」
両手で顔を覆って、栞が震え始めてしまった。恥ずかしがっている栞って、どうしてこんなに可愛いんだろう。
たぶん、私が栞を好きだからだろうな。
「夏鈴先輩」
顔を隠すように栞が私の胸元に顔をうずめた。ぎゅっと抱き締めて、頭にそっとキスをする。
「栞」
「……なんですか」
「大好き」
栞と付き合ってから、私は毎日幸せだ。それなのに、日々幸せを更新している。
「じゃあ、私はその100倍大好きです」
「私はその100倍かな」
「だったら、さらに100倍です!」
第三者が聞いたら、きっとくだらなくて呆れるようなやりとりだろう。それでも、栞とやると楽しい。心がふわふわして、身体がぽかぽかして、飛び跳ねたくなってしまう。
私、本当に栞が大好き。
◆
「せっ、先輩、もうすぐ帰るってお母さんから連絡がありました!」
抱き合っていると、スマホを確認した栞が慌てて立ち上がった。ベッドの上で戯れていたせいで、お互いに髪はぼさぼさだし、服も乱れてしまっている。
このまま、栞の家族と対面するわけにはいかない……!
「栞。とりあえず、櫛貸してくれる?」
「え? あ、どうぞ!」
栞から櫛を受け取って、まずは髪を整える。第一印象は大事だ。栞とこれからも付き合っていくために、どうにかして家族からの好印象を得なくては。
大丈夫。私だって、やればできるはず。
昨日、眠る前にいろんなパターンを想定した。なにを言われても、私は笑顔で愛想よく返す。それだけだ。
◆
私と栞がなんとか身支度を整えた頃、栞の家族が家に戻ってきた。
挨拶をされる前に、素早く頭を下げる。
「初めまして。私、天笠夏鈴と申します」
緊張しながら名乗り終えた私の耳に届いたのは、あまりにも騒がしい会話だった。
「ね、言ったでしょ!? 夏鈴ちゃんって、実物で見る方が写真より綺麗なのよ!」
「……栞と並んだら、お似合いすぎるな」
「分かる。安心して妹を任せられる。てか二人並んだら眼福すぎるだろ」
興奮した様子で私を見ながら喋るお母さんと二人の兄。
そして唯一気難しい表情を保っていたお父さんが、ゆっくりと口を開いた。
「娘のことを、末永くよろしくお願いします」
……なにこれ。どういうこと?




