第72話 栞のペースで
栞の部屋は、白と黄色を基調とした家具で整えられていた。一人用にしてはやや大きめのベッドは天蓋付きで、家具はどれも猫足の可愛らしいデザインの物。
私の部屋と比べるとかなり物が多いけれど、きちんと整理整頓しようとしているのが分かる。
……たぶん、私がくるから片付けたんだろうけど。
隅々まで掃除が行き届いているあたり、おそらく母親の手もかなり借りたのだろう。こんな風に見栄を張らなくたって、私は片付けができない栞のことも好きなのに。
「先輩、どうします? クッション使いますか? それとも、ベッドでお話しします?」
にやにやと笑いながら、栞が私の手を握った。
部屋の中央にはローテーブルが設置されていて、座り心地がよさそうなクッションが二つ置かれている。
けれど私の目は、ベッドにしかいかなかった。
「ベッドにしよう」
「せっかくですもんね?」
栞に引っ張られて、ベッドの上に腰を下ろす。ふかふかのベッドは座り心地も抜群だった。
……あ。
枕元に、あのぬいぐるみもある。
以前私がゲームセンターでゲットした黒狐のぬいぐるみが、我が物顔でベッドの上に鎮座している。嬉しいような、ちょっぴりむかつくような、不思議な気分だ。
「夏鈴先輩。先輩、この服でお家デートがしたかったんですよね? どうですか?」
ぐいぐいと私の腕に胸を押しつけながら、栞が楽しそうに笑う。
今すぐ押し倒したって何の問題もないのだと思うと、理性を保つのがなかなかに大変だ。
「先輩。私、可愛いですか?」
「可愛い」
「ふふっ、先輩、即答ですね」
だって当たり前の事実だから、悩む時間なんていらない。じっと見つめ返すと、栞は恥ずかしがるように顔を背けてしまった。
「そうだ! 先輩、お家デートですし、いちゃいちゃしながらテレビでも見ます? 映画とか! ゲームもありますよ。私の家、結構楽しめると思います!」
栞と一緒なら、正直なんでもいい。
私にとってメインはいちゃいちゃで、テレビやゲームじゃないから。
でも、きっと栞は今日のためにいろいろと考えてくれたのだ。なんでもいい、なんて言葉は口にするべきじゃない。
「そうだね。ゲームとかどう? 私、あんまりやったことはないんだけど」
それに、私はえっちだし栞をかなりそういう目で見ているけれど、身体目的で栞を選んだわけじゃないのだ。
「いいですね! じゃあ、私用意します!」
ベッドから下りた栞が、テレビ下の収納棚からゲーム機とゲームソフトを漁り始めた。
栞が前かがみの姿勢になったせいで、つい、意識が彼女のスカートに集中してしまう。
あとちょっとで、見えそう。
なのに見えない。このスカートをデザインした人は、そこまで計算していたのだろうか。
栞はまだ棚の中を漁っている。だからきっと、ちょっとだけ私が動いてもバレないはず。
私は息を殺して、そっとベッドから下りた。そしてしゃがみ込み、栞のスカートの中をこっそりと覗いた、その瞬間。
「先輩、さすがにそれ、バレてますからね?」
呆れたような声と共に栞が振り返る。その顔は真っ赤だった。
そして、栞のスカートの中は白かった。
「……ごめん。つい」
「それで、どうでした?」
「え?」
「私、今日のために新しいの買ってたんですけど」
限界を越えてしまいそうなほど栞の顔は真っ赤なのに、栞はさらに私を誘惑しようとしている。
付き合ってからのお家デートって、こんなに幸せが溢れてるものだったんだ。
「栞」
「……はい」
「ちゃんと感想を言うためには、もう少しじっくりと見る必要がある……かな」
こんなことを言っても、栞は私のことを嫌ったりしない。分かっていても、口にするとどきどきした。
手に持っていたゲームソフトをテーブルの上に置いて、栞がゆっくりと立ち上がる。
そして。
「……こ、こんなことするの、後にも先にも夏鈴先輩だけですからね?」
ゆっくりとスカートをめくりあげた。繊細なレースのついた上品な下着が、やっぱり栞にはよく似合っている。
白が似合うと見抜いた私は、もしかしたら天才かもしれない。
「な、なにか言ってくださいよ」
「……ありがとう。心の底から」
「ああもう、終わりっ、終わりですっ!」
栞が手を放したせいで、スカートが元に戻った。かなり名残惜しいけれど、私の頭の中にはしっかりと残っている。
記憶力がよくて助かった。
「本当に私、恥ずかしかったんですからね……!」
耳まで赤くなった栞の手を引く。あっさりとベッドに座った栞は、涙目になって私を見つめた。
「うん。だから、ありがとう。恥ずかしいのに見せてくれて」
「言われると余計に恥ずかしいんですけど!?」
「それはごめん」
でも、恥ずかしがってる栞は可愛い。
「……それと、嫌な時はちゃんと、嫌って言っていいから」
「先輩のこと大好きなので、なんでも嫌だなんて思いません」
覚悟の決まった強い眼差しで見つめられる。嬉しすぎる言葉だけれど、彼女の好意に甘えてばかりいるわけにはいかない。
「うん。でも、嫌だったり、まだ早いって思うことは、ちゃんと言っていいから」
そっと栞の頬に手を添える。
栞はきっと、私のことが大好きで、私のためにいろんなことを頑張ろうとしてくれている。
とても嬉しいことだ。だけど私は、栞に無理をさせたいわけじゃない。
「栞のペースでいいの。私は、栞のことが本当に好きだから」
「……夏鈴先輩」
「なに?」
「じゃあとりあえず、ちゅーしてください」
んっ、と突き出された唇が可愛い。もちろん、と頷いて、私は栞にキスをした。




