第69話 大事な一日
「ク、クラスLIMEに入った、ですか……!?」
昼休みに私の話を聞いた栞は、なんとも言えない表情をして立ち上がった。
「そ、そんなの……ぜ、絶対みんながグループから先輩の個人LIMEを追加して、鬱陶しいくらいメッセージ送ってきちゃいますよ!?」
貸してください、と強引にスマホを奪われた。
写真フォルダ以外なら見られても構わないのだけれど、なんだかひやひやする。
「ほら! ここ、友達に追加されましたって通知、たくさん出てるじゃないですか!」
「そうなの? メッセージは特に、きてないと思うけど」
「これからくるって予兆ですよ、こんなの!」
私にスマホを返すと、栞は両手で頭を抱えた。相変わらず表情が豊かで可愛い。
「……栞も、喜ぶかと思ったんだけど」
栞の恋人として相応しい人間にならなければ、という気持ちでグループLIMEに参加した。
けれど栞は、根暗で社交性がない女の方が好みなのだろうか。
「栞が嫌なら抜けるよ」
「違います、そういうんじゃなくって! シンプルに嫉妬してるんです! 焼きもちです!」
大声で可愛いことを言った栞が、私の腕に抱き着いてくる。
「先輩。LIMEのアイコン、私とのツーショットにしてください」
「いいよ」
「それから、私が見せてって言った時はLIME見せてください」
「いいよ」
どちらも、特に困ることではない。だからあっさり頷いただけなのに、栞は瞳をきらきらと輝かせた。
「先輩、大好き」
甘い声でそう言って、私の肩に顔をうずめる。そっと背中に手を回すと、栞はふふ、と幸せそうな笑い声をもらした。
「ね、先輩。今度の日曜日、空いてます?」
「空いてる」
「お家デートしません? 私の家で」
「……栞の?」
ショッピングデートの際、お家デートをしよう、という話をした。私としては、心底楽しみにしていたデートである。
でも、栞から誘ってくれるとは思ってなかった。
「はい。日曜日は夜まで、誰もいないんです」
「……なるほど」
「あっ、今先輩、嬉しそうな顔しましたね?」
にやにやと笑いながら、栞が私の頬をつついてくる。その通りすぎてなにも言えない。
「それと、私の家族が先輩に会いたがってるんです」
「……家族が?」
栞の母親には何度か会ったことがある。けれど、父や兄と会ったことは一度もない。
イケメンである兄達に、栞が私を会わせたくないと主張していたからだ。
「はい。夏鈴先輩のこと紹介しろって」
「……確認なんだけど、栞は家族に、私のことをなんて言ってるの?」
「彼女です」
あっけらかんと答えた栞に驚く。私達はまだ付き合い始めたばかりだ。しかも同性同士である。
普通、家族に交際を伝えるハードルはもっと高いのではないだろうか。
「ずっと好きだった先輩とようやく付き合えるようになったんだって話したら、みんな大喜びでしたよ」
「そうなの……?」
「はい! それに、先輩は私のことが大好きだって分かったので、もうお兄ちゃん達に会わせるのも怖くないです。先輩、可愛い女の子の方が好きですもんね?」
「可愛い女の子っていうか、栞がね」
答えながら、頭の中で状況を整理する。
栞の家族に交際がバレていて、しかも、家族が私に会いたがっている。
もしかして、品定めがしたい……ってこと?
家族からすれば、可愛い可愛い栞に手を出した女だものね、私は。
客観的に見て、自分が娘の交際相手として相応しい自信はない。同性同士だという障壁がある上に、私はコミュニケーション能力に乏しい根暗な女だ。
可愛くて明るくて愛嬌がある、完璧な栞には釣り合わないと判断されても不思議はない。
「栞。家族全員の好物、教えてくれない?」
「へ? いいですけど……なんでですか?」
「全員に手土産持っていくから」
「えっ!? いやいや、そこまでしてもらう必要、絶対ないですって!」
栞は家族仲がよく、楽しそうに家族の話をしてくれる。
だからこそ、栞の家族に交際を反対されたくない。なんとしてでも、栞の交際相手として認めてもらわなければ。
「お願い。大事なことなの」
「夏鈴先輩……」
「絶対、栞の家族には嫌われたくない」
だから、と言葉を続けようとしたのに、栞が勢いよく飛びついてきた。
「先輩のそういうところ、本当に狡いです」
「……なにが?」
栞がときめいてくれたのは嬉しいけれど、今回に関しては理由がよく分からない。
首を傾げた私を見て、好き……と栞がまた嬉しい言葉をくれた。
栞と二人きりのお家デートからの、栞の家族との邂逅。
今度の日曜日は、私にとって大事な一日になりそうだ。




