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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第3章 私は、世界で一番栞のことが好き

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第68話 踏み出す一歩

「え!? せ、先輩のクラス、チャイナドレスになったんですかっ!?」

「出し物は中華カフェ。キャストが着るのがチャイナドレス」

「それでそれで、先輩はキャストですよね、ねっ!?」


 塾へ向かう途中に文化祭の話をすると、栞は想像以上の食いつきっぷりを見せた。

 裏で手を回してたんでしょ、と言いたくなるものの、嬉しそうな顔を見ていると、あえて指摘するものでもないのかな……という気分になってくる。


「……うん。不本意ながら」

「どうして不本意なんですか。絶対似合いますよ! 先輩、赤のチャイナドレスとか似合いそう! あっ、でも青もいいですよね、いや意外性をとって緑とかも似合うかも……っ!?」


 どうしよう!? と栞が頭を抱えてしまった。

 私としては特に希望はないから、栞の意見を聞いてから注文することにしよう。


「それより栞のクラスも、もう出し物は決まった?」

「はい! 決まりましたよ! うちのクラスの出し物はメイドカフェです!」

「……キャストだよね?」

「それはもちろん。私がスタッフなんてしたら、みんなが残念がりますよ」


 頭の中に、メイド服姿の栞が浮かぶ。

 ミニスカートタイプの、メイドカフェでよく見るようなメイド服だろうか。それとも丈の長いクラシカルなタイプだろうか。

 他にも、確認したいことはいろいろある。私の口から真っ先に飛び出したのは、中でも最も重要な確認事項だった。


「衣装って、買い取り?」

「……先輩もしかして、えっちなこと考えてます?」


 からかうような、照れたような表情で栞が覗き込んでくる。


「ねえ、栞。栞的には、えっちな恋人とえっちじゃない恋人は、どっちがいいの?」


 真っ直ぐ見つめると、栞は顔を赤くしてしまった。


 あまりにえっちな恋人は、さすがに栞も嫌だろうとは思う。けれど恋人関係にあるのだから、興味がなさすぎるのも問題ではないだろうか。


 確認しておかないと分からないよね、こういうことも。


「……それは、その……」


 目を逸らしながら、栞が小さい声で答えてくれた。


「……私限定でえっちで、お願いします」

「任せて」


 私の口からは、自分でも分かるほど自信に満ちた声が出てしまった。





「き、昨日はいろいろごめんね、天笠さん」


 翌日教室へ行くと、岸本さんが私の席にきてくれた。

 別に謝られるようなことはされていないと思うけれど、気を遣ってくれたらしい。


「ううん。栞に頼まれただけでしょ、岸本さんは」

「うん。実はその、私の部活の後輩の友達が羽田さんのクラスメートで」

「……結構、繋がり遠いんだ」


 直接の知り合いではないだろうと予想していたけれど、そこまで距離があるとは知らなかった。

 どうやら栞は、よっぽど私にキャストをさせたかったらしい。


「頼まれたのは私だけど、結局、断りにくい場面で伝えることになっちゃって……もっと事前に言うべきだったって、反省してる。ごめんなさい」


 たどたどしい口調ながらも、岸本さんはしっかりと謝ってくれた。

 ここまで謝られると、逆に申し訳なくなってくる。


「天笠さん、本当はキャスト、嫌だったりする? 今からでも取り消せないことはないんだけど」

「大丈夫。栞にも、キャストやるって言ったし」


 チャイナ服を着て接客するなんて気が進まないけれど、栞の喜ぶ顔を見るためだと思えば耐えられる。


「よかった。あっ、あと、1個、天笠さんに聞きたいことがあって」

「私に?」

「うん。ずっと言えなかったんだけど……クラスのグループLIME、入らない?」

「……え?」


 クラスのグループLIMEがあることは知っていた。とはいえクラスの誰とも友達ではない私は招待すらされていない。

 なのに今さら、誘われるなんて。


「実はみんな、ずっと天笠さんにも入ってほしいねって話してたの。でも、誘ったら迷惑かなってみんな悩んでて……」

「……話しかけにくくてごめん」

「そ、そういうわけじゃないの! ただ、最近ちょっと雰囲気が変わった気がしてて。だから、よかったらどうかな、って……」


 私の雰囲気が変わったのだとすれば、それは間違いなく栞のおかげだ。

 だから、こうしてクラスメートに声をかけてもらえたのも栞のおかげ。


「……あのね、うちのクラスの子、結構みんな天笠さんと仲良くしたがってるんだよ?」


 岸本さんは穏やかに微笑んで、スマホを差し出してくれた。

 私はもともと社交的な性格じゃないし、中学時代の経験のせいで、人と関わることに消極的になってしまった。


 でも、一歩踏み出してみても、いいのかもしれない。


「ありがとう。よかったらクラスLIME、入れてほしいな」


 私は栞の彼女になったのだ。いつまでも根暗で、まともに他人とコミュニケーションもとれないような人間でいるわけにはいかない。


「本当!? ありがとう、天笠さん!」

「……こっちこそ、誘ってくれてありがとう」


 今さら入って大丈夫かな、という不安はある。でも嬉しそうな岸本さんを見ていたら、そんな不安は少しずつ減っていった。


 中学生の時、クラスメートと喋れるようになったのはすみれのおかげだった。だからすみれと仲違いした後は、誰とも喋れなくなってしまった。

 そもそも私は、すみれ以外のクラスメートにあまり関心を持っていなかった。


 でも、今の私は、あの頃の私とは違う。

 クラスメートとも、普通に仲良くなれるのかもしれない。

 私、今度こそ、本当に変われるのかも。

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