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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第3章 私は、世界で一番栞のことが好き

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第67話 次なるイベントは?

「先輩、ありがとうございます!」


 狐のぬいぐるみを抱えて、栞が満面の笑みを浮かべる。この笑顔を見られただけで、クレーンゲームと格闘した甲斐があったというものだ。


「この子のこと大事にしますね。名前、なんにしようかな。なにがいい?」


 ぬいぐるみに話しかけている栞はたぶん、万病に効くと思う。

 それくらい、とてつもなく可愛い。


「決めました! この子の名前リンリンにします」

「リンリン?」

「はい。夏鈴先輩の、リンです! ほらほら、先輩もリンリンに話しかけてみてください」


 ずいっ、とぬいぐるみ———リンリンを眼前に突き出される。


 話しかけるの? 私が?


「ね、先輩。リンリンが待ってますよ?」


 ぬいぐるみに話しかける趣味はない。でも、これは栞が望んだことだ。


「リンリン、こんにちは」


 悩んだ挙句、とりあえず挨拶してみた。

 すると栞が、リンリンの右手を動かす。


「コンコン! 狐のリンリンだコン!」


 どうやらリンリンの語尾はコン、という狐らしいものに決まったようだ。裏声でリンリンの声を出した栞が、満足そうに胸を張る。


「夏鈴先輩。私今日から、毎日リンリンと一緒に寝ますねっ!」


 ぎゅ、と栞がリンリンを抱き締める。

 どうやらこの狐は、私のライバルらしい。





「それでは、今日のホームルームは文化祭の出し物についてです」


 ホームルームが始まった瞬間、私は溜息を吐きそうになってしまった。さすがに学級委員の二人に失礼だから、そんなことはしないけれど。

 高校生活において、二学期最大の行事は文化祭だ。10月上旬に開催される文化祭では、一年生と二年生はクラスごとに出し物を行う。

 三年生は受験を控えているため、クラス単位での出し物はない。


 去年は私、サボって図書館で勉強してたんだよね……。


 悪いと思いつつ、ついサボってしまった。友達が特にいない状況で学校行事に参加するのは、かなりハードルが高いのだ。

 とはいえ悪かったな、と去年を振り返っている間に、教室での議論が進んでいく。


「お化け屋敷とか!」

「カフェがいいんじゃない?」

「メイドカフェとか? 単純にコスプレ喫茶もありだし!」

「焼きそば屋とかは!?」


 男女ともに、真っ先に意見をあげるのはクラスの中心にいるようなタイプの子達だ。

 すみれもこんな感じだった。中学は私立じゃなかったから、派手な出し物はできなかったけれど。

 ぼんやりしている間に議論は進み、最終的に多数決で出し物を決めることになった。

 なんやかんやあった末に、最終候補として残ったのは三つだ。


・中華カフェ

・巫女カフェ

・メイドカフェ


 コスプレがしたい! とはしゃいだ女子達による意見を中心に作られた候補である。

 正直なところ、どれになったとしても問題はない。あまり参加する気はないし、もし参加することになったとしても、裏方しかやるつもりはないから。


「じゃあ、挙手で多数決とりますね。皆さん、どれが一つに手を上げてください!」


 学級委員長の岸本きしもとさんが多数決を取り始める。どれにも手を挙げなかったら、さすがに悪目立ちするだろう。

 そう思った私は、なんとなく中華カフェに手を挙げてみた。





「じゃあ、うちのクラスの出し物は中華カフェに決まりですね。衣装の発注とかもあるので、キャストとスタッフも決めておきたいんですが」


 岸本さんの提案に、クラスメート達が拍手で応じる。スケジュールのことを考えて早めに諸々決めておくのは、私としても賛成だ。


「人数は調整できるので、とりあえず、キャストをやりたい人は全員手を挙げてください」


 岸本さんが促すと、教室にいた女子の三分の二くらいが手を挙げた。どうやらみんな、中華カフェの衣装———チャイナドレスを着たいらしい。


 栞になら着せたいけど、私が着ても意味がない。


 三分の二も希望があれば、女子の方は問題ないだろう。

 そう思っていたのに、なぜか岸本さんと目が合ってしまった。なんとなく目を逸らすと、岸本さんがつかつかと私のところに歩いてくる。


「天笠さん。さっき、中華カフェに手を挙げていた気がして……人数はまだ増やせるので、遠慮しなくても大丈夫ですよ?」

「え? あ、いやその……」


 なんで? 岸本さんと私って特に話したことないのに。

 もしかして根暗な私が、キャスト希望だって言い出せなかったんじゃないかって心配してくれてる?


 天笠さん? と岸本さんが首を傾げる。三つ編みにした髪が揺れた。


「いや、あの、私は別に……」


 大丈夫です、と言葉を続けるよりも先に、周囲から声が上がり始めてしまった。


「天笠さん、絶対チャイナドレスとか似合うと思う!」

「私、天笠さんのチャイナドレス見たいかも!」

「俺も!」


 なぜか男女問わずほぼ全てのクラスメート達が騒ぎ出したのだ。

 全然、話をしたことなんてないのに。


 戸惑っていると、岸本さんが私の耳元に口を寄せた。


「……いきなりで本当にすいません。実はあの、私、羽田さんに頼まれてるんです。カフェ系の出し物になったら、天笠さんをキャスト参加させてください、って」

「え?」

「本当はこのお願いも、天笠さんには内緒って言われたんですけど……」


 困りきった表情の岸本さんに見つめられる。

 どうやら、顔が広い栞が事前に手を回していたらしい。


 もしかして私が去年文化祭サボったって話、誰かから聞いたの?

 それで、今年は参加させようとした……のかな。


 盛り上がるクラスメート達と、困った顔の岸本さん。

 そしてなにより、私を文化祭に参加させるべく裏で動いていた栞。

 こうなったらもう、私の選択肢は一つしかない。


「……分かった。私も、キャスト希望でお願いします」

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