第66話 ゲーセンデート
カラオケを出て駅へ向かう途中、栞に腕を引かれ、近くにあったゲームセンターにやってきた。
カラオケと同じく店内は騒がしいけれど、栞と一緒なら苦にならない。
「ね、先輩。先輩って、クレーンゲームとか得意ですか?」
「……どうだろう? あんまりやったことないんだよね」
中学時代はゲームセンターへ行っても、音ゲーやアーケードゲームをすることが多く、なかなかクレーンゲームをする流れにはならなかった。
父親がいた頃はよく連れていってくれたけれど、自分でクレーンゲームをした記憶はあまりない。
「じゃあ、やってみません? もうちょっとだけなら、寄り道しても大丈夫でしょうし!」
スマホで時間を確認する。確かにあと30分程度なら、遊んで帰っても問題なさそうだ。
「いいけど、欲しい物でもあるの?」
「特に欲しい物があるわけじゃないですけど、なんていうか、シチュエーションに憧れがあって!」
「シチュエーション?」
栞が少しだけ恥ずかしそうに目を逸らした。
「……少女漫画とかでよくあるじゃないですか。恋人に、おっきいぬいぐるみとってもらうやつ」
「確かに……ある、かも?」
少女漫画以外でも、ラブコメ系の漫画やアニメでは定番のシチュエーションな気がする。
つまり、栞は私に大きいぬいぐるみをとってほしいってことだよね。
深呼吸をして、近くのクレーゲームをチェックする。小さい物ならまだしも、大きいぬいぐるみはかなりハードルが高いのではないだろうか。
栞のためなら何回だって挑戦する。でも、何回もやるって行為そのものがダサいかも……!
「夏鈴先輩?」
「……任せて。必ずとってみせる」
「えっ? いやその、そんなに意気込んでくれなくても大丈夫ですよ!?」
本当に大丈夫ですからね!? と栞が焦り始めたけれど、恋人として彼女の憧れのシチュエーションを叶えてあげたい。
なんとしてでも、景品をゲットしなければ。
「栞はどれが欲しいの?」
「そうですね……やっぱり、先輩っぽいのがいいなぁ」
真剣な顔になって、栞が景品を確認していく。
アニメのキャラクターや、動物がモチーフになったぬいぐるみ等いろいろあるけれど、私っぽいものはあるのだろうか。
「あっ、この子がいいです!」
悩んだ末に栞が見つけたのは、大きな狐のぬいぐるみだった。白と黒の二種類があって、栞が指差したのは黒い狐だ。
「……狐?」
「はい! 先輩って、動物にたとえたら狐みたいな気がしません!?」
「それ、どうなの?」
「頭がよくて、とっても美人ってイメージです!」
とびきりの笑顔でそんなことを言われてしまったら、狐に愛着がわいてきた。
栞から見た私って、そんなイメージなんだ……。
「ちなみに私は、動物にたとえたらなんだと思います?」
ねえ、と栞が楽しそうに顔を覗き込んでくる。これに関しては即答だ。
「ポメラニアン」
「えっ、犬種まで指定ですか!?」
「絶対、ポメラニアンだと思う」
小さくてふわふわで、笑顔が可愛い。まさに栞みたいな犬だ。
将来犬を飼うなら、絶対にポメラニアンがいい。
「それって、可愛いってことですよね?」
「うん」
「……そうだった、今日の先輩は素直すぎるんだった……」
赤くなった顔を隠す栞が可愛い。
そっとその頭を撫でた後、鞄から財布を取り出す。
財布の中には500円玉が1枚と、100円玉が3枚入っていた。
狐のぬいぐるみのクレーンゲームは1回200円だから、これで4回できる。
両替にいけばまだできるけど、両替に行くのってスマートじゃないよね。
どうにかして、4回以内であのぬいぐるみをゲットしたい。無謀かもしれないけれど、恋人にいいところを見せたい。
深呼吸をし、機械に小銭を投入する。
クレーンの位置をボタンで操作し、確定ボタンを押してぬいぐるみを掴む……という方式のようだ。
これって確か、単純に持つだけじゃなくて、タグに引っかけたりいろいろしないといけないんだよね?
ただ、まずはアームの可動域や力を確認しなければ作戦が立てられない。
必要な情報を確保するために、最初は普通に掴んでみることにした。
クレーンをぬいぐるみの真上に移動させ、確定ボタンを押す。ぬいぐるみのちょうど真ん中を挟んだものの、アームの力が弱く、上まで持ちあがった瞬間にぬいぐるみは落ちてしまった。
落下したぬいぐるみが、反動で後ろに跳ねてしまう。
これ、思ったより難しいかも……!
「夏鈴先輩。さっきも言いましたけど、無理しなくていいですからね?」
「いや、絶対にとる。安心して。今のは練習だから」
———なんて、格好つけて言ったものの。
私が無事に黒狐のぬいぐるみをゲットできたのは、3回ほど両替機に通った後だった。




