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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第3章 私は、世界で一番栞のことが好き

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第65話 カラオケデート

「可愛いだけでいいですか?」


 マイク片手にあざとく歌う栞を見ながら、私は栞がアイドルじゃなかったことに感謝した。

 もし彼女がアイドルだったら、きっと私はただのオタクで終わりだ。


「……どうでしたか、先輩」


 歌い終わった栞が、マイクをテーブルに置いてソファーに座る。表示された点数は84点。悪くはないけれど、すごく高得点だというわけでもない。

 けれど私が採点をするのだとすれば、文句なしに100点だ。


「栞は可愛いだけでいいと思う」

「もー! 可愛いだけじゃなくて、私って他にもいいところあるんですからね?」


 ぷく、と頬を膨らませて抗議される。つい頬を人差し指でつついてしまうと、話聞いてます? と睨まれてしまった。


 まずい。栞が可愛すぎるのが悪いけど、私も気をつけなきゃ。


「ごめん。可愛いだけじゃなくていいところがあるのも、ちゃんと分かってるから」

「……へ?」

「こう見えて真面目でしっかりしてるところとか、人のことちゃんと見てて、相手が嫌がることをしないようにしてることとか。場を盛り下げないように空気を読みがちなところとか、なにより自分の気持ちをちゃんと言葉にして人に伝えられるところとか。あと……」

「す、ストップ! ストップです、夏鈴先輩!」


 慌てた栞に口をおさえられる。またしても真っ赤になった栞が、はあ、と息を吐いた。


「先輩のデレ、まだ慣れてないんですから、せめてもうちょっと小出しにしてください……あっ、いや、でもいっぱい聞きたい……うう……」


 どうしよう、と言いながら栞が頭を抱えた。動きが大きいところも好きだと付け加えたら、きっと栞はもっと赤くなるんだろう。


「とりあえず、先輩も歌ってくださいっ! 私、先輩の歌も聴きたいので!」


 押しつけるように選曲用端末を渡される。この展開は予想済みだ。


 やっぱり栞にはいいところを見せたいし、一番上手く歌える歌にしよう。


 少しだけ考えた後、私は『偶像』という曲を入れた。少し前に流行ったアイドルアニメの主題歌で、社会的現象にもなった曲である。

 ハイテンポで難しい曲だけれど、何度か歌ったことがあり、それなりに自信があるのだ。


 すみれとカラオケに行くと、いつもこの曲をリクエストされたから。


 キャラじゃないから、と最初は歌うことを拒もうとしたけれど、夏鈴に歌ってほしいの! なんて言われたら、あの頃の私は歌うしかなかった。


「……先輩の選曲としては、なんか意外かもです」

「流行ってたから」


 すみれの名前を出さず、そう答えてマイクを握る。


 上手く歌えるかな。

 栞に、いいところが見せられるといいんだけど。


 祈るような気持ちを込めて、私は歌い始めた。





「夏鈴先輩、めっちゃくちゃ歌上手じゃないですか!?」


 歌い終えると、興奮した栞が立ち上がった。画面に表示された『96点』という文字を見て、ほら! と飛び跳ねる。


「こんなに歌が得意だなんて、私、知りませんでしたよ!?」

「……普段、あんまり歌うことってないから」

「これは日頃から歌うべきレベルなんですけど!?」


 すごい、先輩さすがです、と褒められるのは気持ちがいい。

 恋人として、栞に格好いい姿を見せられただろうか。


「ただ……」

「ただ?」

「選曲が気に入りません。誰かの気配を感じるので」


 一瞬で笑顔を引っ込めた栞が、むすっとした表情のままスマホを取り出す。


「今から、私が先輩にぴったりな歌を探します。なので、それを覚えて、今後は持ち曲を変えてください」


 栞、絶対拗ねてる。

 すみれに嫉妬してるんだろうな。私はもう、すみれのことなんてなんとも思っていないのに。


 すみれはあれから、私にメッセージを一回だけ送ってきた。


『夏鈴が幸せそうでよかった』


 と、たった一言だけ。

 既読はつけたけれど、特に返信はしていない。


「先輩、これなんかどうです? 最近流行りのバンドの曲で、きっと先輩の声にも合いますよ」

「いいと思う」

「……まだ聴いてませんけど?」

「栞がいいって思うなら、それを覚えるから」


 はあ、と栞がゆっくり息を吐いた。


「先輩って、本当にもう……! 美人で頭もよくて歌まで上手くて、完璧すぎませんっ!? できないことあるんですか!?」

「あるよ、いっぱい」


 栞みたいに上手く大勢とコミュニケーションはとれないし、他人と一緒になにかをするのは苦手だ。

 あと、運動も得意じゃない。


「でも、栞のためなら頑張ってできるようになるよ」

「これ以上完璧になりすぎないでください!」


 慌てたように叫んで、栞は私に抱き着いてきた。


「……みんなが先輩のこと好きになりすぎちゃったら、私、心配なので……」


 栞の頭をそっと撫でる。猫みたいにすり寄ってきた栞の額に、そっとキスをした。


「それでも私は余所見なんてしないから、安心して」


 こんなに愛おしい子なんて世界に一人しかいない。今まで待たせてしまった分、不安にもさせたくない。


 ……だけど。

 不安がる栞も可愛くて困る。

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