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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第3章 私は、世界で一番栞のことが好き

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第64話 栞は私の彼女だから

「先輩、今日は放課後デートの日ですよ!」


 放課後、私の教室にやってきた栞は満面の笑みを浮かべていた。

 昨日はツーサイドアップだった髪を、今日は耳の下で二つ結びにしている。短い髪で、必死に頑張ってくれたのが愛おしい。


「うん」

「行きたいところ、いっぱい考えました! カフェとか、ショッピングとか、カラオケとか!」


 あとは……と次々に選択肢を口にする栞が可愛い。

 動物園や水族館なんていう、今から行くのは少し厳しそうなものも多かったけれど。


「夏鈴先輩は、なにがしたいですか?」


 栞と一緒ならなにをしても楽しい。

 とはいえ、せっかくデートに行くのに、なにも提案しないのは悪いだろう。


「……そういえばカラオケって、一緒に行ったことないよね」


 カラオケ自体は、中学の時に何度か行った。いずれもすみれに誘われて参加したもので、あまり居心地がよくなかったことを覚えている。

 店内は騒がしいし、他人が知らない歌を歌っている間は暇だし。


 でも、栞となら楽しいはず。

 栞の歌は聴きたいし、うるさければそれを口実に密着できるし。


「じゃあ、カラオケに行きましょう! 夏鈴先輩の歌聴くの、とっても楽しみです」


 歩きながら、慌てて脳内で歌える曲をリストアップする。

 なんだかどれも少し古い気がするけれど、まあいいだろう。





 駅前のカラオケは少しだけ混雑していたけれど、10分間待つと入室できた。相変わらず騒がしい場所だが、悪くない。


「夏鈴先輩。もしかして、私と二人っきりになりたくてカラオケがいいって言いました?」


 二人しかいないのに、私の真横に座った栞が顔を覗き込んでくる。


「当たりですか?」


 ねえ、と甘えるように栞が私の腕に抱き着く。ぐいぐいと胸を押しつけてきているのは、きっとわざとだ。


「先輩。私、素直になってくれたら嬉しいな?」


 栞は狡い。世界一可愛い顔面の威力を分かっていて、こんな風に甘えてくるのだから。


「……栞とくっつきたくて」


 私の言葉に栞が目を輝かせる。恥ずかしくても、この顔を見せてくれるならいくらでも素直になりたい。


 それにきっと、ちゃんと気持ちを伝えてくれる恋人の方がいいよね。


「あと、栞の歌を聴いてみたかった。歌ってるところも、絶対可愛いなって思ったから」

「ちょ、ちょっと先輩! 急に……きゅ、急に、素直になりすぎじゃないですか!?」


 待って、と栞が私の肩を両手で軽く押す。いつの間にか、白い頬が苺みたいに赤く染まっていた。


「だってもう、栞は私の彼女だから」


 赤い頬に手を伸ばす。栞の頬は温かくて、太陽みたいだなと思った。


「ねえ、栞」

「は、はひ……」


 ちら、と横目でドアを確認する。真ん中の部分がガラスになっていて、外から完全に隠れられるわけじゃない。

 だけどきっと、ちょっとなら許される。


「キス、してもいい?」

「よ、喜んで……」


 そっと栞の唇にキスをする。甘いリップの匂いがした。


「栞。もう一回、してもいい?」


 尋ねたのに、返事を聞く前にキスをしてしまった。

 強引すぎる恋人は、よくないかもしれないのに。





「かっ、夏鈴先輩、歌、歌いましょう!」


 5回ほどキスを繰り返した後、立ち上がった栞が選曲用端末を持ってきた。残念な気もするけれど、栞の歌が聴けるのは楽しみだ。


「栞は普段、どんな歌聴くの」

「そうですね……特にこれ! っていうわけじゃなくて、流行ってるのをいろいろ聴きますけど、アイドルソングが多いかもしれません」


 喋りながら、栞は端末に『可愛いだけでいいですか?』という曲名を打ち込んだ。さすがの私でも知っている、最近大流行りのアイドルソングだ。


「私、歌はそんなに上手じゃないですけど、可愛く歌える自信はあります!」

「歌う前から可愛いもんね」


 当たり前のことをさらりと口にしてしまうと、栞はまた顔を真っ赤にした。


「今日の先輩は、刺激が強すぎます……」

「嫌だった? どんな恋人がいいか教えてくれたら、最大限努力はするつもり」


 栞の好みが一般的な女性のそれと同じだとは限らないし、本人から教えてもらえる方がありがたい。


「わ、私は! 先輩なら、なんでも大好きなので……」

「こうしてほしいとか、ない?」


 じっと栞の目を見つめる。徐々に栞の目が潤んできて、目を逸らされてしまった。


「……わ、私は、余所見しないで傍にいてくれたら、それだけで十分で……」

「当たり前のことを言われても、あんまり参考にできないんだけど」


 だからもう少し詳しく、と言おうとしたのに、ちょうどそのタイミングで歌が始まってしまった。

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