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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第3章 私は、世界で一番栞のことが好き

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第63話 最高の彼女

「あれ? 世界って、こんなに綺麗だったっけ……」


 家を出た私は、口からそんな言葉が飛び出してくるくらいには浮かれていた。

 空も太陽も薄汚れた道路も、今日は全てが美しく見える。理由は明白だ。私は昨日から、しおりと付き合っているから。

 全身が軽い。終わらない夏の暑さも気にならない。学校に行けば彼女である栞に会えるのだと思うと、今すぐ全力疾走したいくらいだ。


「……だめだめ。落ち着いて、私」


 せっかく栞と付き合えるようになったのに、こんな調子では栞に呆れられてしまう。もっともっと栞に好きになってもらって、私から離れられないようにしたいのに。


 深呼吸をして空を見上げる。これからの私は、栞にとって最高の彼女を目指さなければならない。

 栞は世界一可愛い。だから、ライバルは無数にいる。


「最高の彼女、か」


 最高の彼女とはなんなのだろう。難しすぎる問題に、私はそっと息を吐いた。





 校門の前で栞を待っていると、すぐに栞もやってきた。ホームルームが始まるまではまだかなり時間があるけれど、栞も私も、早くお互いに会いたかったのかもしれない。


「栞」


 手を振ると、栞が走り出した。


「せーんぱいっ、おはようございます。栞ですよ? 先輩の栞。先輩だけの栞です」


 あまりにも可愛すぎる挨拶を披露してくれた栞を見て、一瞬、世界がとまったかと思った。

 だって、髪型が違う。いやもちろんどんな髪型をしていても栞は最高に可愛いのだけれど、いつもと違う姿に目を奪われるのは当たり前だ。


「先輩。今日の私、どうですか?」


 似合う最高写真撮っていい?


 と言いそうになって、必死に我慢する。まずい。恋人になったとはいえ、本音をそのまま栞に伝えるわけにはいかない。

 栞が好きになってくれた私のイメージをしっかりと守りつつ、最高の彼女を目指さなくては。


「今日も、可愛い」


 照れたように笑った後、栞が私の腕に抱き着いてきた。しかも、ぐいぐいと胸を押しつけてくる。

 栞はきっと知らないのだ。私の脳内が、どれほど邪な妄想にまみれているかを。


「夏鈴先輩。今日、塾が終わったら自習室でちょっとだけ一緒に勉強してから帰りません?」

「いいよ」

「やったー! 私、先輩に教えてほしいところ、ためてるんです」


 できれば科目は保健体育がいいな、なんて言えない。最高の彼女になりたいのに、そんなことを言えばただのセクハラ彼女だ。


 ……まあ、彼女なんだから、ちょっとくらいのセクハラは許されてほしいけど。


「ねえ、先輩。私、最高に幸せです!」

 

 素直な気持ちを伝えてくれる栞が愛おしい。彼女はいつだって真っ直ぐだから、彼女が今、心の底から幸せを感じてくれているのだと信じられる。


「私も幸せだよ、栞」

「ふふ、私達、朝から幸せ同士ですね!」


 くっついたまま歩いていると、ふと通学中の電車で見たインターネットの記事が頭に浮かんだ。


『女性が恋人に求める一番の条件は、優しさ』


「栞」

「なんですか?」

「鞄、持ってあげる」

「えっ!?」


 戸惑う栞の鞄を奪い、肩にかける。私の鞄より重たいのは、栞がいろんなものを持ち運んでいるからだろう。


「きゅ、急にどうしたんですか夏鈴先輩!? 夏鈴先輩の荷物もありますし……あっ、そうだ!」


 立ち止まった栞が、私の手から鞄を奪った。


「じゃあ代わりに、先輩の鞄は私が持ってあげます! ね?」


 それでは意味がないと思うのに、栞が幸せそうに笑うからなにも言えない。

 これじゃあ、荷物を交換して不便になっただけだ。


「先輩の鞄は軽いですね。先輩、整理整頓してますもん」

「無駄な物を入れてないだけ」

「それができるのが、整理整頓スキルなんです!」


 そのまま歩き、栞の教室がある2階に上がってから、自分の鞄に持ちかえた。


「夏鈴先輩」

「なに?」

「今度、鞄におそろいでなにかつけません?」


 栞のスクールバッグには、よく分からないキャラクターのぬいぐるみやキーホルダーがいくつもつけられている。一方、私の鞄にはなにもつけていない。

 単純に邪魔だからだ。


 でも、栞がしたいことは、全部一緒にしたい。


「つけよう」

「やったー! 今度、一緒に買いにいきましょう! ふふ、デートの約束が増えちゃいましたね?」


 栞が笑って、私の小指を絡めとる。


「指きりげんまん、ですよ?」

「……嘘ついたら?」

「一日中、しおりんを抱っこする刑に処しちゃいます!」


 嘘、つこうかな。


「じゃあ先輩、また昼休みに!」


 手を振って、栞が駆けていく。短いスカートが心配になったけれど、計算された長さなのだろう、特になにかが見えることはなかった。


 ……いや別に、期待したとか、そういうわけじゃないんだけど。

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