第56話 彼女って、最高かも
「ふふ、私達ってもう両想いなんですよね。ねぇ先輩」
ベッドの上に座り、対面で抱き合ったままの体勢で、栞は上機嫌にそう言った。
付き合っているからなんの問題もない状態とはいえ、だからこそいろいろと意識してしまう。
あまりにも細い栞の腰だとか、ぐいぐいと押し当てられる豊かな胸だとか。
「先輩、今なに考えてます? 私のこと?」
「栞のことだよ」
正直に答えると、栞は私の手を握った。そしてそのまま、私の手を胸元に誘導する。
「夏鈴先輩はえっちですから。どうせこういうことも考えてたんですよね?」
「……」
「いいんですよ? 恋人に対してそういうことを考えるのって、当たり前ですから」
そうだろうか。そうかもしれない。
少しずつ手のひらを動かし、栞の胸を揉む。夏服のブラウスは薄くて、奥にある感触を簡単に予想できた。
ああ、だめだ。一度始めてしまったら、やめられない。
私の手の中で、栞の胸が形を変える。まずい。まずいと分かっていながら、夢中になって揉み続けてしまう。
柔らかくて、大きくて、でも、ちょっとだけ硬いところもあって。
どうしよう。栞のおっぱい、無限に触ってたい……。
ずっと大好きだった栞と付き合えたというのに、付き合って早々こんなことをするなんて、身体目当ての獣のようだ。
でも、栞がいいって言ったし。
脳内で言い訳をしつつ、また栞の胸を揉む。柔らかい。柔らかいけれどしっかりとハリもあって、非常に素晴らしい。
「夏鈴先輩」
「……やりすぎた?」
「そうじゃないですけど……」
栞の顔は赤い。赤くなった彼女の顔を見るとつい、手元に力が入ってしまった。
「先輩! 今話してるんですけど?」
「ごめん、つい」
謝りながらも手が止まらない。本当にまずいのだけれど、許してほしい。
「……まったく」
溜息を吐くと、栞はブラウスのボタンに手をかけた。
「そんなに触りたいなら、直接触ってみます?」
「えっ」
「今の夏鈴先輩、見たことないくらい喜んでたんですけど」
指摘されるのは恥ずかしいものだ。とはいえ、喜んでいない、なんて言うこともできず、私はわずかに栞から目を逸らした。
全部、可愛すぎる栞のせいだ。
「そうだ。このボタン、先輩が外してみます?」
挑発するように、栞は一番上のボタンだけを自ら外した。ブラウスのボタンなんて10個もない。1個ボタンが開いただけでどきどきする。
「いいですよ。だって私、先輩の彼女ですもん」
彼女って、最高かも。
興奮しきった頭に従って私の右手が動き出した瞬間、予想していなかった声が部屋に響いた。
「夏鈴! 誰かきてるの?」
―――お母さんである。
◆
「遊びにきてくれてたなんて知らなくて……! 夕ご飯は食べて帰る? でも急に迷惑かしら? 遅くなるし……あっ、帰りにタクシー手配すれば安心かしら!?」
栞を前にしたお母さんは、なかなか見ることができないハイテンションっぷりを発揮した。
「い、いえ! タクシーなんてそんな……! っていうか、すいません、急にお邪魔しちゃって!」
「いいのよ、そんなの。私もずっと会いたいと思ってたの。夏鈴がいつも貴女の話をするから」
「えっ、夏鈴先輩って私の話してくれてるんですか!?」
興奮した栞が立ち上がると、そうよ! と母も同じ熱量で返してしまった。
私としては、全く二人のテンションについていけない。
お母さんが帰ってこなかったら、私は今頃……!!
栞のブラウスのボタンを全て外し、欲望のおもむくままに彼女の胸を揉みしだいていたはずだ。それがいいことかどうかはさておき、望んでいたことではあった。
しかし母親の声を聞いた途端に栞はブラウスのボタンをとめ、制服の乱れを正し、私達のいちゃいちゃタイムは幕を下ろした。
「あっ、私のお母さん、車で迎えにきてくれるそうです。なのでよかったら夕飯、ご一緒してもいいですか?」
「もちろん。ねえ、夏鈴?」
栞とお母さん、両方に見つめられる。二人とも眩しい笑顔を浮かべていた。
「……うん」
栞がうちで夕飯を食べて帰るのは全く問題ない。一緒にいられる時間が伸びて嬉しいし、お母さんも喜んでくれたし。
でも、あと10分、いや、せめて5分だけでも遅く帰ってきてくれたらよかったのに……!




