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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第2章 栞は、世界で一番私のことが好き

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第51話 信じてますから

 これはまずい。

 本当に、非常に、すこぶるまずい。


 そっと息を吐いて頭を抱える。授業の内容なんて全く頭に入ってこない。

 私のスマホの画像フォルダにはえっちな栞の写真があって、昼休みに私は栞にキスをして。


 ―――なのに私達はまだ、付き合っていない。


 今の私達はどこからどう見たって健全な関係ではない。それはとてもまずいことなのではないかと、私の本能のようなものが騒いでいる。

 結末は決まっているから問題ない、と栞は言っていた。果たしてそうだろうか。不健全な今が、結末に影響を与えてしまうことはないのだろうか。


「……さん、天笠さん!」


 名前を強く呼ばれ、ハッとして立ち上がる。どうやら私があてられていたらしい。


「問3の答えは?」


 慌てて問題を確認し、正解を口にする。あっさりと解放してもらえたのは、日頃私が真面目に授業を受けているからだろう。

 だけど、この状況が続くのはまずい。

 授業に集中しなくては、と意識を教科書に向けようとしても、頭の中に浮かんでくるのは栞のことばかり。

 邪な私の脳味噌は『なにをしてもいい』という言葉に、完全に反応してしまっているのだ。


「……はあ」


 栞は私が好きで、私も栞が好き。

 そこから導き出される結末なんて、確かに一つしかない。





「せーんぱいっ、一緒に帰りましょ? どうします? 今日はどこでデートします?」


 放課後になると、笑顔の栞が教室にやってきた。

 いつの間にか、塾がない日の放課後は一緒に過ごすのが当たり前になっている。だから今日だって、特に事前に約束をしていたわけではない。


「……ごめん。今日は用事があって」


 私が言うと、栞はあからさまに落ち込んだ表情になった。そうですか、と寂しそうな声で言いながらスカートの裾をぎゅっと握る。


 捨てられた子犬みたいで、可愛い。


「ごめん」


 もう一度謝ると、栞は顔を上げて私を見つめた。


「何度も謝らなくていいですよ。別に、今日は約束してたわけじゃないですし」


 栞の声には、わずかに棘が含まれている気がする。栞は私の手を握ると、ぐいっ、と強引に距離を詰めた。


「それで夏鈴先輩。今日の用事は、どんな用事なんです?」


 大きな瞳が私の心を覗こうとしている。とっさに目を逸らした私を見て、栞は溜息を吐いた。


「二回も謝るくらい、私に言えないような用事なんですか?」

「そういうわけじゃない」


 栞の目を見て答える。でも栞は、ふうん、とつまらなそうにそっぽを向いてしまった。

 私は今日、すみれと会う。けれどやましい目的はない。私はただすみれの謝罪を聞きにいくだけ。

 すみれに会いたいからじゃなくて、過去を断ち切るためだ。


「本当ですかね」

「本当」


 それなのに、すみれに会うのだと栞に言えなかった。言えばきっと、彼女は嫌な気持ちになるだろうから。


「明後日は、栞が行きたいところに付き合うから」

「それってどこでもですか?」

「どこでも」


 即答すると、栞は背伸びをして私の耳元に口を寄せた。


「ホテルでも?」


 からかうような口ぶりで言うと、栞は私から離れて笑った。彼女の瞳には、赤くなった私の顔が映っている。


「先輩が悪いんですからね」


 そう言うと、栞はあっさり私から離れて歩き出してしまった。繋がれていない手のひらが寂しくて、彼女の手首を掴む。


「栞」

「……なんですか、先輩?」

「駅まで、手を繋いで帰ろう」

「……先輩って、まったく……」


 呆れたように言いながらも、栞は私の手を握り返してくれた。


「私じゃなかったら、絶対先輩の相手は無理ですよ? いい加減さっさと自覚してください。余所見なんてしたって、無駄な時間を使うだけなんですからね」


 頬を膨らませた栞が私の手のひらに爪を立てた。痛いけれど、嬉しい痛みだ。だってこれは、栞が可愛い嫉妬をしてくれている証拠だから。


「あと、家に帰ったら電話してください。遅くなったら私、なにするか分かりませんからね」

「分かった」

「……忘れないでくださいね。ずっと先輩のことが好きなのは、私なんだってこと」


 口には出さないけれど、たぶん栞は私がすみれに会うことに気づいている。

 栞は今、心の中でなにを考えているのだろう。


「夏鈴先輩。そんな顔しないでください」

「……栞」

「私は先輩のこと、信じてますから」

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