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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第2章 栞は、世界で一番私のことが好き

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第49話 終わらせるんだ

 リビングに移動して、コンビニで買ってきた弁当を温めた。

 笑顔で食事を始めた栞は、本当にいつも通りに見える。


「先輩。ほら、あーん」


 笑顔の栞が、私にハンバーグを差し出してくる。反射的に食べると、栞は満足そうに笑った。

 そして当たり前のように、私からもあーんをせがむ。


「せーんぱい、早く!」

「……あーん」


 差し出した卵焼きを栞が美味しそうに食べる。私が黙るたびに口を開けてあーんを要求する栞は、雛鳥みたいで可愛かった。





 栞が家へ帰った後、ベッドの上に寝転がってカメラロールを見返す。そこにある栞のえっちな写真を開いて、穴が開きそうなほど凝視した。


「……本当に、よくない」


 分かっている。分かっているけれど、何時間だって眺めていられそうだ。


「なんでもするって、言ってたよね……」


 なんでも、ってなんだろう。本当になんでも? 私が望んだことを、栞がなんでもやってくれるの?


 分かっている。その言葉につけこんで、栞を傷つけるようなことをしてはいけない。それでも『なんでも』という言葉が甘い響きで私を誘惑してくる。

 私は今日、栞の胸に触れた。私が望めば、彼女はそれ以上のことも許してくれるのだろうか。


「だめだって、分かってるのに……」


 分かっているのに狡い私は、頭の中でいろいろと考えてしまう。

 どうすれば栞が私から離れられなくなるのだろう。なにをすれば栞は私をもっと好きになってくれるんだろう。

 伝えるべき言葉を伝えていないくせに、私は、自分が傷つくことばかりを恐れている。


「……最低だ、私って」


 過去のトラウマも臆病さも言い訳にしかならない。このままだといつか栞は、情けない私を嫌いになってしまうだろう。

 溜息を吐いてスマホを閉じようとした瞬間、イソスタに一件のDMが届いた。


『ちょっとだけ、通話できない?』


 すみれからだ。反射的に飛び起きてしまって、そんな自分に嫌気がさす。

 私はもう、本当にすみれのことは好きじゃない。それでも過去、彼女が私にとって特別だった事実は、こんなにも身体にしみついてしまっているのか。

 すぐに既読をつけた私のことを彼女はどう思ったのだろう。もう考える必要はないことなのに、それでも考えてしまった。

 いいよ、と返信するとすぐに電話がかかってきた。


『もしもし、夏鈴?』

「……うん」

『久しぶり』


 久々のすみれの声は、記憶の中にある声と同じだ。


『いきなりごめん。この前会った時、話しかけられなかったから』

「……うん」


 すみれはあの日、私と一緒にいると疲れると言っていた。これ以上一緒にいたくないとはっきりと宣言された。

 その事実は絶対に変わらない。けれど同じように、私がすみれと過ごす日々を愛おしく思っていたことも、きっと一生変わってくれない。


『勝手だって分かってるけど、夏鈴が楽しそうにしてて安心した』


 声は変わっていないけれど、すみれの話し方はちょっとだけ大人っぽくなった気がする。

 時間が経過したからだろうか。それとも、誰かが彼女を変えたのだろうか。


『夏鈴はアタシのこと、もう嫌いだよね』


 狡い。好きじゃないよね? と聞かれれば、さすがに私だって肯定できた。なのに、嫌いだよね? と確認されたら、どうしたらいいか分からなくなる。


『ねえ、夏鈴。今度一回、会えないかな?』

「……どうして?」


 私達はもう、理由もなく顔を合わせるような関係にはない。すみれだって分かっているはずだ。

 何事もなかったかのように友達を再開するには、私達の間にはいろいろなことがありすぎた。


『謝らせてほしいの。あの時のこと。あの時のアタシは本当に馬鹿だったって、今は思ってる』


 時が経ち、幼かった頃の過ちを反省する。よくあることだ。そして相手に謝ってすっきりしたいと思うのも、きっとよくあること。

 すみれとの過去が私にとって忘れられないトラウマになったように、すみれにとっても私にしたことは忘れられない過ちなのかもしれない。


『時間は夏鈴に合わせるから。……お願い、夏鈴』


 未練はない。なのになんで、とっさに突き放せないのだろう。

 今さら謝罪なんていらないと突っぱねて、今すぐ電話を切ってしまえたらいいのに。


『……今さら、都合がいいこと言ってるのは分かってる。でも、お願い。夏鈴』


 頭の中に、すみれと過ごした楽しい思い出が流れてくる。

 学校帰りに寄ったコンビニのイートインスペースで長々とおしゃべりに興じたこと。小テストで赤点になったすみれに放課後の教室で授業をしてあげたこと。修学旅行で同じ班になって、夜更かしして先生に怒られたこと。

 本当に好きだったから、たくさん、たくさんある。


 すみれはたぶん、私に謝ってすっきりしたいだけ。

 私もすみれも、もう前の関係に戻るつもりはないはず。

 ううん。もう絶対、戻れない。戻れなくていい。今の私に必要なのはすみれじゃない。


「……分かった」


 私はただ、謝罪を聞きにいくだけ。

 過去にけりをつけて、前に進むために。トラウマを払拭して、ちゃんと栞と向き合いたいから。


 トラウマを終わらせるんだ。終わらせて、栞との恋をちゃんと始める。

 これ以上、栞を待たせられない。


『本当っ!? ありがと、夏鈴!』


 嫌になっちゃうくらい、すみれの笑い方は昔と変わっていなかった。

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