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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第2章 栞は、世界で一番私のことが好き

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第48話 安心してください

 パシャ、とシャッターの音が部屋に響く。

 唇を離すと、満足げな表情で栞がスマホの画面を見せてきた。


「よく撮れてますよね」


 内カメで撮影された写真には、私と栞の顔がはっきりと写っていた。誰か見たってこれは、私と栞が恋人のように唇を重ねている写真でしかない。


「ねえ先輩。私はこの写真を、いつだって誰にでも見せられるんですよ?」


 勝ち誇ったように笑った後、栞は大きく両腕を広げた。


「次は先輩の番です。いいですよ? いっぱい撮っても」


 やっぱりこんなことはやめよう。


 たった一言そう口にして、今すぐ違う言葉を栞の耳元で囁いてやればいい。そうすればきっと、私と栞は正しい恋人同士になれる。

 でも、栞の弱みを握れば、栞が私に飽きたって離れられなくなるだろう。


 なんでこんなこと考えちゃうんだろう。

 私は栞を信じているはずなのに。私は、栞のことをちゃんと幸せにしたいと思っているはずなのに。


 私はもう、すみれのことは好きじゃない。けれどやはりまだ、私の頭と心に彼女の記憶が強く刻まれている。大事なものを急に失ってしまうことが怖くてたまらない。


「夏鈴先輩」

「……栞」

「ほら、どうぞ。ね?」


 ごくりと唾を飲み込んで、そっとスマホを構える。スマホの画面越しに栞の肌を見つめると、大罪を犯しているような気分になった。

 パシャ。パシャ。

 シャッターの音が部屋に何度も響く。栞は顔も胸も隠さず、ただじっとスマホのレンズ越しに私を見ていた。


 私達は今、なにをしているのだろう。

 分からなくなってくる。床がぐにゃりと歪んで、倒れてしまいそうな気がした。


「撮影、終わりですか?」

「……うん」


 お腹空きましたね、と笑いながら栞が服を着る。あっという間にいつもの制服姿になった栞が、私の手を掴んだ。


「お弁当食べましょう」


 びっくりするほどいつも通りの栞だ。

 でも私のスマホには、上半身が下着姿の栞の写真が何枚も入っている。

 こんなのはやっぱり、おかしい。


「ごめん。さっきの写真、今から消すから」

「どうしてですか?」

「だって……」

「私が消さなくていい、って言ってるのに?」


 夏鈴先輩、と甘えるような声で名前を呼んで、栞が猫のようにすり寄ってくる。


「こんな写真を撮っていいなんて言うの、私くらいですよ? それに写真だけじゃなくて、先輩は私にならなにをしたっていいんです」


 栞は今、なにを考えながらこんな言葉を口にしているのだろう。彼女の頭の中を、完全に覗くことができたらいいのに。


「こんなに先輩のこと好きなの、絶対私だけですからね。先輩が他の子を好きになったって、ここまでしてくれる子なんていませんから」

「……どうして?」


 私の問いかけに、栞が目を見開いた。


「どうして栞は、そんなに私のことが好きなの?」


 栞が私を好きでいてくれることは分かる。だけど、その理由が分からない。

 栞はこんなに可愛くてこんなにいい子なのだから、きっと彼女を好きになる人はたくさんいる。栞への愛情で他人に負けるとは思わないけれど、他の誰よりも自分が魅力的である自信はない。


「なんでだと思います?」

「……分からないの」


 私と栞は中学時代、塾で出会った。劇的な出会いではなかったと思う。それからだって、なにか特別なことがあったわけじゃない。


「私は、運命だと思います」

「……運命って」

「だって、自分でもびっくりするくらい夏鈴先輩のことが好きなんですもん。先輩に会うたびにずっと、日に日に先輩を好きになってるんです」


 真っ直ぐな言葉が私の心にしみる。栞はそっと私の頬に手を伸ばした。


「私は既に先輩のことが大好きですけど、明日はもっと先輩が好きで、一年後はもっともーっと先輩が大好きなんです」


 そっと額にキスをされる。その後、栞は優しく私を抱き締めた。


「だから先輩、安心してください。私はずっと先輩が好きで、ずっと先輩の傍にいます。すみれって人みたいにいなくなったりしませんから」


 栞はきっと、私の気持ちに気づいている。臆病な私が、どうして素直に気持ちを口にできないのかにも。

 だけど、栞は先程泣いていた。彼女自身も不安な気持ちを抱えているのに、それでも私の心に寄り添おうとしてくれている。


「……ごめん」

「なんで謝るんですか。私はごめんより、好きが聞きたいタイプですよ?」


 栞が私の唇にキスをした。シャッター音はならない。取引でもなんでもない、ただのキスだ。


「ねえ、先輩。だから安心して、もっと私のこと大好きになってくださいね。私、ちゃんと待てます」

「……栞」

「他の子にいこうとしたら、さっきの写真は見せますけど」


 悪戯っぽく笑った栞が、私の頭を撫でた。

 彼女に頭を撫でられるなんて初めてだ。


「私はとっくに、先輩と一生一緒にいる覚悟は決まってるんです。だから先輩、焦らなくても、私はどこにもいきませんよ?」


 瞳から涙があふれそうになる。栞はまた笑って、ご飯にしましょうね、と私の手を引っ張った。


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