第46話 私だけのことを
制服のブラウス越しに感じる栞の胸は、確かな重量があった。こんなことをされてしまったら、揉みしだきたい、と強く思うのも仕方がない気がする。
「私は先輩のことがずっと好きで、先輩にもずっと、そう伝えてきました」
「……うん」
「でも女同士だから、なかなか上手く伝わらないのかな、私のことを恋愛対象としては見てくれないのかなって、不安になったりもしてたんです」
ぐい、とさらに距離を縮めてきた栞の瞳から涙があふれた。
「でも、そうじゃなかったんですよね。だって先輩は、すみれって人は好きになったんですから」
大粒の涙が次々と栞の瞳からこぼれた。責めるような、縋るような眼差しは初めて見るものかもしれない。
「夏鈴先輩。先輩はまだすみれって人が好きなんですか? 私は? 私じゃだめなんですか?」
「……その話、いつ聞いたの」
「夏祭りの日の夜です」
そっと息を吐く。夏祭りが終わってから今日までの間、栞はなにも言わなかった。きっと私に気持ちをぶつけたいタイミングは何度もあったはずなのに、ずっと我慢してくれていた。
理由なんて一つしかない。栞が、私を気遣ってくれたからだ。
それと同時に彼女が大胆さを増していったのは、私の恋愛対象に女性が含まれることを聞いたからだろう。
「……私、本当は他人から話を聞いたこと、言うつもりじゃなかったんです。先輩にとって楽しい過去じゃないだろうし、もう終わったことなら、掘り返す必要もないですし」
泣きながら栞が話し続ける。その間、私の手はずっと栞の胸にあてがわれたままだ。
「それに前より、先輩も、こう……私のこと好きなのかなって、そう思えてきて、始業式の日だって、先輩が朝私を待っててくれたのが嬉しくて……でも……」
どうやらちゃんと、私の好意は栞に伝わっていたらしい。
それでも彼女は笑顔を浮かべてはくれない。覚悟を決めたようにスマホを取り出すと、イソスタを開いて私の前に差し出してきた。
表示されているのは、投稿0の鍵アカウント―――私のアカウントである。
「これ、すみれって人ですよね? 前まで、先輩のフォロワーにこんな人いなかったですよね!?」
どうやら栞は、私のアカウントのフォロワーをチェックしていたらしい。
迂闊だった。その可能性を考えずに、私はあっさりすみれからのフォローリクエストを許可してしまった。
「夏鈴先輩。私、聞いたんですよ? 仲が良かったのに、この人が先輩を裏切って、先輩を傷つけたって。先輩が悪いわけないんですから、この人が全部悪いに決まってるんです」
栞はスマホをベッドの上に投げ捨てて、また私との距離を詰めた。私が少しでも動けば、あっという間に唇が触れてしまいそうな近さだ。
「……なのに先輩はまだ、この人が好きなんですか」
「違うよ。別に、フォローリクエストがきたから許可しただけ」
「どうしてですか? それ、この人とまた繋がりたかったからですよね?」
「……違う。本当に、違うから」
私はもうすみれのことを好きじゃない。彼女に対する強い気持ちは、愛情も憎しみも失われてしまった。
だからこそ私は、彼女からのフォローを拒まなかっただけ。
「でも先輩は、この人からのフォローリクエストを拒まなかったし、この人をブロックもしなかった。それって、先輩がまた、この人と話したいからじゃないんですか」
違う、とすぐに答えることができなかった。私はもうすみれのことを好きではないし、彼女と話したいと熱望しているわけじゃない。
けれど、すみれが私に話したいことがなんなのか、それを知りたかったのは事実だから。
「分かってます。この人と話さないでとか、ブロックしてとか、そんなことを言う権利なんて私にはないって。だって私、先輩の彼女じゃないですもん」
泣きながら言うと、栞は私を思いっきり睨みつけた。
「でも先輩、私のことだって、可愛いって言いましたよね?」
「……今も思ってるよ」
「それに先輩は、女の子も好きになれるんですよね?」
栞はゆっくりと私から離れた。
そしていきなり、ブラウスのボタンを外し始める。ブラウスを脱ぐと、そのままインナーも脱いで、上半身だけ下着姿になった。
栞の大きくて柔らかい胸を包む下着は、純白だった。
「きゅ、急にどうしたの」
思わず声が震える。栞の行動の意味が分からなくて頭がごちゃごちゃだ。それに、どきどきしすぎて心臓が苦しい。
「先輩、私に興奮してます?」
してるに決まってるじゃん、と答えるのをなんとか我慢する。それでも栞は、私の欲望を見透かしたように笑った。
「ねえ、夏鈴先輩。私、夏鈴先輩のためならなんでもします。私になら、なにをしてもいいんですよ?」
再び栞は、私の手を彼女の胸元に導いた。でもさっきとは全く違う。
生の感触は特別で、反射的に少し指に力を加えてしまったせいで栞の胸が形を変えた。
「だから、だから……すみれって人のことなんて、忘れてください。私だけのことを好きになってください」
震える身体から、栞の覚悟が伝わってくる。とっさに彼女を抱き締めると、栞は子供のように大声を上げて泣き始めた。




