77話 地下研究施設②
ディランたちは、魔人が蠢く部屋を横目に、さらに奥へと進んでいった。
その道中にある部屋を確認していくが、どの部屋にも拘束された人間や魔人の姿がある。
「……酷い」
モニカが小さく呟く。
ディランも言葉を返すことができなかった。
教国が掲げる、マナと魔獣に対する信仰……マナ因子とやらを利用した人体実験。
その全容を確かめるために来たはずだった。
だが、実際に目の前にすると、そんなことを考えている余裕すらなくなっていた。
「……次の部屋を調べよう」
ディランがそう言って歩き出した時だった。
廊下の奥に、一つだけ大きな扉が見えた。
「ここ……他の部屋と少し違うわね」
フラムが扉を見ながら呟く。
「開けてみよう」
ディランが扉に手をかける。
ゆっくりと開いていく扉の向こうには、薄暗い部屋が広がっていた。
その中はこれまでと同様、壁に沿って小窓が幾つもの並んでいたが、中を覗いてみると……個室のようになっていた。
そして、他の部屋に収容されていた人たちよりも厳重に拘束された人間が収容されていた。
「……なんで一人づつ入れられてるんだ?」
クライスが眉をひそめる。
ディランも部屋の中へ視線を向ける。
そして――
「…………は?」
見覚えのある顔があった。
ディランの足が止まる。
「……嘘だろ」
自分の目に映った光景が理解できず、思考が止まる。
そして、もう一度……目を凝らす。
間違いない。
そこにいたのは、かつて自分が率いていた第三小隊の隊員だった。
「おい……」
ディランは、ゆっくりとその名前を口にした。
だが、返事はない。
別の場所にも視線を向ける。
「……お前も……」
そこにも見覚えのある顔があった。
そして、その隣にも。
「ディラン……?」
フラムが驚いたように声をかける。
「……こいつらは、俺の部隊のやつらだ」
「え……?」
ディランは手が震えるほど、拳を強く握りしめた。
「待ってろ……今、助ける」
ディランは盾爪を構えると、拘束された隊員たちを閉じ込めている扉へ駆け寄った。
「ディラン、待って!」
フラムが叫ぶ。
だが、ディランは止まらない。
盾を振り抜いた。
——ガンッ!
扉の錠が弾け飛ぶ。
その瞬間だった。
——ビーッ! ビーッ!
突然、研究所内に気叩ましい警報音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
クライスが辺りを見渡す。
すると、廊下の奥から次々と音が聞こえてきた。
——ガコンッ。
——ガコンッ。
——ガコンッ。
先ほどまで閉じられていた扉が、一つ、また一つと開いていく。
「……まさか」
フラムが炎剣を構える。
その直後。
部屋の中から、魔人が飛び出してきた。
「くそ!邪魔するな!」
ディランが盾を構える。
魔人の爪が盾に叩きつけられる。
——ガキンッ!
「くっ……!」
ディランはその一撃を受け止める。
「おいおいおい、数が多すぎるって!」
クライスが剣を構えながら叫ぶ。
「モニカ、あいつらを抑えて!」
「やってみます!」
モニカが障壁を放つ。
数体の魔人は抑え込めたが、他の魔人たちが次々とこちらへ襲いかかってくる。
「フラム!」
「分かってる!」
フラムの炎剣が魔人を斬り裂く。
しかし、一体を倒したところで、また別の魔人が飛びかかってきた。
「くそっ……!」
ディランは盾で攻撃を受け止めながら、拘束された部下たちへ視線を向ける。
「待ってろ……!」
その時だった。
「随分と懐かしい顔がいると思ったら……」
廊下の奥から、男の声が聞こえてきた。
「……誰だ!」
ディランが振り向く。
魔人たちの間を抜けるようにして、一人の男がゆっくりと歩いてくる。
その顔を見た瞬間、ディランの目が見開かれた。
「……お前は」
見覚えがある。
イスフィールで見たことのある顔だった。
「なぜ、お前がここにいる……?」
ディランの問いに、男は口元を歪める。
「なぜ、だって?」
男……ゲルハルトは、まるでその疑問を嘲笑うかのように笑った。
「簡単な話だよ」
ゲルハルトは拘束された第三小隊の隊員たちへ視線を向ける。
「私はもともと、こちら側の人間なのだから」
「……こちら側だと?」
「そうだ。マナを回収し、新たな被験体を手に入れるのに、お前たちの世界はちょうど良かった……その礼に、面白いものを見せてやろう」
ゲルハルトは懐から一本の小さな容器を取り出した。
中には、黒く濁った液体が入っている。
「これは、これまで使っていたものとは違う」
ゲルハルトはその容器を眺めながら、楽しそうに笑う。
「マナ因子と魔獣因子を凝縮し、さらに改良を加えたものだ」
「やめろ!」
ディランが叫ぶ。
だが、ゲルハルトは止まらない。
拘束された隊員の一人へ近づくと、その腕に注射器を突き刺した。
「ぐっ……!」
「やめろおおおっ!」
ディランが魔人を弾き飛ばし、ゲルハルトへ向かおうとする。
しかし、その前に別の魔人が立ちはだかった。
「邪魔だ!」
ディランは盾で魔人を吹き飛ばす。
だが、その間にも……
ゲルハルトは次の隊員へ薬を投与していく。
「これで、どうなるか……楽しみだな」
「貴様……!」
ディランは盾を握りしめた。
そして、拘束された仲間たちの身体に、少しずつ変化が現れ始めていた。




