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68話 集落を目指して

 ――数日後

 

  ディランたちはクロイツ教会を発ち、教国南方へと続く山道を進んでいた。


 周囲を囲むように広がる深い森。


 足場の悪い岩道に加え、頭上を覆う木々のせいで昼間だというのに薄暗い。


「はぁ……っ、ほんとにこんな道が交易路だったの?」


 先頭を歩いていたフラムが、鬱陶しそうに枝葉を払いながらぼやく。


「昔はもう少しマシだったらしいぞ」


 後ろを歩くクライスが肩を竦めた。


「教国との交易が減ってから、まともに整備されなくなったんだとよ」


「それにしたって、もっとまともな道はなかったの?」


「ったく、文句言うなって、仕方ねぇだろ」


「はぁ……」


「溜め息吐いてねぇで、歩け歩け」


「うるさいわね」


 相変わらず騒がしい二人を見ながら、ディランは周囲へ視線を巡らせる。


 風が木々を揺らす音が、やけに耳に残る。


「……妙だな」


 ディランが呟く。


「ん?」


「いや、なんとなくだけど……森の動物たちの気配が少ない気がして」


「あ〜、確かにな」


 クライスが面倒臭そうに頭を掻いた。


「それは、俺もずっと気になってた」


「クライスさんもですか?」


 モニカが問い返す。


「ああ。鳥一匹みかけ…な」


 その時だった。


 ガサリ――と、茂みの奥で何かが動く音が響いた。


 フラムは反射的に剣へ手を伸ばし、ディランも盾を構える。


「来るぞ」


 低く呟いた直後。


 森の奥から飛び出してきたのは、灰色の狼型魔獣だった。


「グルルルルッ!!」


「速っ……!」


 一匹や二匹でない。

 茂みの奥から次々と姿を現し――気づけば一行は包囲されていた。


「おいおい、随分歓迎してくれるじゃねぇか!」


 クライスが剣を抜きながら笑った。


「フラム!横だ!」


「言われなくても!」


 飛びかかってきた一匹を、フラムが炎を纏わせた斬撃で真っ二つに切り裂く。


 だが、その直後。


 別の個体が横合いからディランへ飛びかかった。


「ディラン!」


「っ!」


 盾を構え、牙を受け止める。


 重い衝撃。


 そのまま押し返し、体勢を崩した魔獣へ盾爪を振り下ろした。


 血飛沫が舞う。


 しかし。


「まだ来るぞ!」


 クライスの声と同時に、さらに奥の森から唸り声が響いた。


「……数が多すぎるわね」


 フラムが眉をひそめる。


 本来、魔獣たちはここまで群れを作らない。


 しかも、妙だ。


 魔獣たちの動きは荒く、まるで統率が取れていない……


「ディラン!」


「ああ!」


 クライスと同時に前へ出る。


 飛び込んできた二匹を、盾で強引に弾き飛ばす。


 そこへクライスの剣が叩き込まれた。


「おらっ!」


 豪快な斬撃。


 神官騎士らしからぬ荒々しい剣筋だった。


「クライス殿、右奥から二匹!」


「おう!」


 横から飛び込んできた個体を、クライスは蹴り飛ばす。


 その隙を突き、モニカが両手を構えた。


「――障壁」


 四人を囲むように障壁が広がる。


「助かる!」


「一度態勢を立て直してください!」


 そう言い返しながらも、モニカは冷静に周囲を見渡していた。


 だが。


「……っ、いったい何匹いるのよ?」


 フラムが舌打ちする。


 森の奥。


 木々の隙間から、赤い瞳がいくつもこちらを覗いていた。


「冗談だろ……」


 クライスが顔を引き攣らせる。


「こんな数、普通じゃねぇぞ」


 ディランも同じことを感じていた。


「ディラン様!このままでは……」


「ああ、突破するぞ!」


 長引けば不利になる。


 ディランは盾を構え直し、前方の群れへ突っ込んだ。


「フラム!道を切り開くぞ!」


「任せなさい!」


 炎が迸る。


 爆ぜるような熱風と共に、前方の魔獣たちが吹き飛んだ。


「今だ、走れ!」


 一行はその隙を逃さず、森の奥へ駆け抜ける。


 背後から響く唸り声。

 枝葉を踏み荒らす音。


 だが、しばらく走り続けたところで、不意にその気配が遠のいていった。


「はぁ……っ、はぁ……」


 足を止め、フラムが肩で息をする。


「なんなのよ、あの数……」


「異常ですね」


 モニカも険しい表情を浮かべていた。


「狼型の魔獣で、ここまで大規模な群れが確認されたことはありません」


「……嫌な感じだな」


 ディランが森の奥を睨む。


 教国の不穏な動き、魔獣の増加。


 この二つに関連性が無いとは思えなかった。


「おい、見えてきたぞ」


 クライスが前方を指差す。


 木々の隙間を縫うように、その先から小さな灯りが見えていた。


「……集落か」


 山間に築かれた、小規模な集落だった。


 木柵に囲まれたその場所には、わずかだが人の気配もある。


「どうやら、無事辿り着けたみてぇだな」


 クライスが安堵したように息を吐く。


 その時、木柵の上から視線を感じた。

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