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67話 教国への道

 ――アルデルトに案内され、ディランたちは教会内の客室へと通されていた。


 廊下を見渡してみると、壁に走る亀裂はそのままに、砕けた床板だけを張り替えてあったり。


 ところどころに改修の跡が見受けられた。


 (キメラや魔人の襲撃で、かなりの被害が出てるみたいだな……俺たちが戦った大型のキメラ以外にもやっかいなヤツがいたかもしれないし)


「こちらになります」


 アルデルトが扉を開ける。


 中は簡素ながらも清潔感のある部屋だった。


 木製の机と椅子、簡易的な寝台が並べられている。


「思ったより広いわね」


 フラムが部屋を見回しながら呟く。


「本来は巡礼者や来客用の部屋ですから」


「へぇ……」


 ディランも室内を見渡す。


 宿ほど豪華ではないが、数日泊まるには十分すぎるほどだった。


「食事については後ほど運ばせます」


「食事まで出してもらっていいのか?」


「ええ、あなた方は御客人なのですから、気にしないでください」


 アルデルトは穏やかに笑う。


「それと、クライスには後でこちらへ来るよう伝えてあります」


「そうなの?何してるのよ、あのおっさん」


「教会の修復作業や、神官騎士の鍛錬をしてもらってるんですよ」


「鍛錬をねぇ、クライスにそんなことできるの?」


「ふふ、意外と面倒見は良いですよ。フラムさんは出来が良すぎて教えることが何もなかったって、クライスはいつも言ってましたが」


「ん?フラムもクライス殿から教わってたのか?」


「ハンターになりたての時の話よ……教わったって言うより、お節介で付き纏われた感じだけど」


 (そりゃ、年端も行かない娘がハンターなんてやってたら心配するだろうな……)


「そんな言い方はひどいんじゃないか?お節介でも、気にかけてくれるだけありがたいだろ」


「そりゃまぁ、そうだけど」


「そうそう、その兄ちゃん言う通りだぜ。あのじゃじゃ馬を野放しにしてたらどうなってたことか」


 ふと、客間の入り口から声がかかる。


「クライスさん、早っかったですね」


「おうよ、客人を待たせるわけにはいかねえだろ?」


 そう言ってニカっと笑顔を見せる中年親父の姿に、ジトっとした目つきでフラムが睨みつけていた。


「誰がじゃじゃ馬よ?斬られたいの?」


「な、物騒だな!?だいたい、怖いもの知らずで手当たり次第に依頼を受けようとしてたやつをじゃじゃ馬と言わんでなんて言うんだよ」


「フラム、お前そんなことやってたのか?」


 ディランまで呆れた表情で尋ねると、フラムは罰が悪そうな表情を浮かべて目を逸らした。


「そんなことも、あったかしらね」


「ったく、少しは感謝しろってんだよ」


「……あんたには感謝したくない」


「んだよ!?散々苦労させたくせに、おめーは!」


「まぁまぁ、クライスさんも落ち着いて、本題に入りましょう」


 アルデルトは三人の間に入るように、クライスを嗜めた。


「っと、そうだったな。教国の調査に行くんだってな?俺も同行するって話らしいが」


 クライスは顔を顰めながらアルデルトへと向き直った。


「俺はアル坊の専属だ……いくらお前さんの指示でも離れる訳にゃいかねえ」


「……クライスさん」


 (クライス殿の気持ちもわかる……騎士として、主から離れることはその矜持に反してしまう……俺だって彼の立場なら同じことを言うだろうな)


「そう言ってもらえるのは嬉しいです。ですが、そうなると……私も調査に同行しなければなりませんね」


「何でそうなるんだよ!?司祭のお前がここを離れるわけにはいかねぇだろが」


「わかってるじゃありませんか。だからこそ、信頼している、あなたとモニカに行って欲しいんです」


「んなっ……」


 何か言い返そうとクライスは口を開けたまま、わなわなと手を振るわせていた。


「……だぁったく、しょうがねぇなあ!そう言われちゃ断れねぇだろうが」


 クライスはガシガシと頭を掻きながら、大きく溜め息を吐いた。


「ですが、引き受けていただけるのでしょう?」


「断ったらお前、本気で自分が行く気だったろ」


「ええ、そのつもりでしたが?」


「はぁ……言い出したら聞きゃしねぇ」


 呆れたように肩を落としながらも、クライスはどこか諦めたように笑った。


「わかったよ。ちゃんと行ってきてやる」


「ありがとうございます、クライスさん」


 アルデルトが静かに頭を下げる。


「で?」


 クライスは近くの椅子を引き寄せると、どかりと腰を下ろした。


「具体的にどう潜るつもりなんだ?」


「それについてですが――」


 アルデルトは机の上へ数枚の地図を広げる。


 マナウルス教国周辺の地形。

 山脈や街道、集落らしき印まで細かく記されていた。


「現在、教国へ入る正式な街道はかなり厳しく監視されています」


「やっぱり正面からは無理か」


 ディランが地図を覗き込みながら呟く。


「ええ。クロイツ教会襲撃以降、検問も強化されているそうです」


 答えたのはモニカだった。


「特に、外部から流れてきた傭兵や旅人への警戒が強まっています」


「あれだけ派手に暴れてくれたんだ、探りを入れられると思ってんだろ」


 クライスが苦笑混じりに頷く。


「だから正面突破は却下。となると、山越えか?」


「はい」


 アルデルトは地図の北側を指差した。


「教国南方には、小規模な集落と山道を繋ぐ交易路があります」


「交易路?」


「正式な街道ではないため、監視も比較的緩いようです」


「ようですってことは、確証はないのか?」


「最後に確認できたのが数年前ですから」


「……なるほどな」


 ディランは地図へ視線を落とす。


 (山道か……交易路として使われてたとしても、大人数での移動は難しいだろうし、潜入には向いているかもしれないな)


「ですが、問題もあります」


 モニカが静かに口を開いた。


「その周辺では、以前から魔獣の出現頻度が多くなっているのです」


「魔獣が?」


「ええ、ここ数年で魔獣の出現数が増加し、集落への流通商隊からも被害の報告が出ています」


「おいおい、それじゃ潜入するだけでも命懸けじゃねぇか」


「教国に潜入するのだって命懸けなんだから、今更でしょ?邪魔するなら斬り払うだけよ」


「いや、そう簡単に言うが……」


 煮え切らない返事をするクライスに、フラムはめんどくさそうに溜め息を吐いた。


「はぁ……そんなに心配なら、残ればいいじゃない」


「ぐ、そう言う訳にゃいかねえだろうが」


「じゃあ、ぐちぐち文句言うんじゃないわよ」


「わあったよ、行くさ、行きますとも!魔獣だろうがなんだろうが蹴散らしてやらぁ!」


 なかばやけくそになりながら声をあげるクライスに、アルデルトが声をかける。


「危険な任務をお願いしてしまい、申し訳ありません……しかし、教国のしていることをこのままにしておくわけにもいきませんので」


「わかってるさ……俺だって奴らにやられっぱなしなのは気に入らねぇからな」


「ありがとうございます。集落まで辿り着けば、そこで休息を取り、態勢を整えてから教国の南方から潜入します」


 ――それから一同は、必要な物資や移動経路の確認を済ませて作戦会議を終えた。

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