81.「もしかして」じゃない ― 姉が気づきかけた“好き”という確信
夜、静かな部屋。
ことりは、スマホの画面をじっと見つめていた。
そこには、自分がコメントした投稿と――
その下に返ってきた、あの優しい返信。
「僕も、あなたがいてくれてよかったと、
そう思っています。」
たったそれだけの言葉。
でも、読み返すたびに、
心の奥がぽっと灯るような温かさが、そっとにじんでくる。
(どうして……
この人の言葉って、こんなにも、私の心に届くんだろう)
今まで、何人ものレイヤーを見てきた。
素敵な人も、憧れた人もいた。
でも――
こんなふうに、“その人自身”に惹かれたことなんてなかった。
(“誰”かじゃなくて、
“この人”じゃなきゃ、ダメな気がする)
写真も、言葉も。
そして、その“まっすぐなやさしさ”も――
全部を通して、
“trace_nao”という人そのものを、好きになってしまった気がしていた。
ベッドに腰かけながら、
ことりは、ぽつりとつぶやいた。
「……私、ほんとうに、この人のこと、好きかもしれない」
その瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。
だって――
名前も、顔も、年齢も、住んでいる場所さえも知らない。
それでも、
「“この人”に出会えてよかった」
って、心から思ってしまっている自分がいた。
(いつか、この気持ちが届くのかな)
(でも……もし届いて、壊れたらどうしよう)
怖くなった。
でも――後悔は、したくなかった。
ことりは、スマホのメモを開いた。
そして、ひとつだけ。未送信の言葉を、そっと綴った。
「あなたの存在が、
私にとって、すこし特別になってきました。」




