72.姉ちゃん、たぶん今、言葉を選んでる ― 届かない声を待つ夜
尚人は、スマホを握ったまま、
投稿もしていないアカウントの通知を、何度も確認していた。
(……まだ、コメントは来てない)
でも、それは最初から分かっていたことだった。
通知のたびに、真っ先に“いいね”をくれる名前。
@RINA_cos
その正体が「姉ちゃん」だということを、尚人はもう気づいている。
(姉ちゃん……きっと、何か言おうとしてるよね)
なんとなく、感じていた。
“その先”にあるはずの言葉が、
何かに飲み込まれて、途中で止まっているような気配。
尚人は、ノートに綴ったキャプション案を開きながら、
静かに、独りごとのように呟いた。
「今、無理して言葉を出してほしいわけじゃないよ」
「でもね、姉ちゃん……俺、ちゃんと受け止めるからね」
「届かなくても――
“届こうとしてる気配”って、分かるんだよ」
スマホを胸にそっと当てたまま、尚人は目を閉じた。
姉が、何度も指を止めては消している姿が、
まるで目に浮かぶようだった。
(きっと、姉ちゃんは“言いすぎない言葉”を選んでる)
(でも、本当はもう――伝えたいって思ってくれてるんだ)
(……ありがとう、姉ちゃん)
(コメントはまだ届いてないけど――
俺には、もう十分伝わってるから)
尚人は、もう一度スマホの画面を見て、
静かに通知をスワイプした。
通知は更新されていなかった。
でも――
「今日も、待ってるよ」
「姉ちゃんの“気持ちの続きを”…いつでも」




