64.“また、夜が来た” ― 無意識に待ってしまう姉の心
夜。
ことりは、仕事を終えてお風呂を済ませ、
部屋の明かりを落としたあと、いつものようにスマホを手に取った。
(明日は撮影の準備しなきゃ……
そうだ、衣装のチェックリストも作っておかないと)
そう思いながらも、指は自然とSNSアプリを開いていた。
(なにしてるんだろ、私……)
画面を更新。
タイムラインには、知ってるレイヤーたちの投稿。
でも――
目が探しているのは、たったひとつのアカウント名。
@trace_nao
(……また、見に来ちゃった)
昨日の投稿も、一昨日の投稿も。
どれも覚えてる。
心の奥に、まだ残ってる。
それでも――
今夜も、“次”を見たいと思ってしまう。
(……あの人、たぶん夜10時過ぎくらいに投稿してること多いよね)
ふと、スマホの画面に表示される時刻を見る。
21:57
(待ってるわけじゃない。
ただ、偶然。そう、偶然……)
22:03
通知がふっと画面に浮かぶ。
「@trace_naoさんが新しい投稿をしました」
胸が、きゅっとなる。
(……やっぱり、来た)
開く指が、ほんの少しだけ震えた。
キャラの表情。
キャプションの言葉。
光の使い方。
その全部が、自分の“心の奥”と、何かを共有している気がした。
「なに、この人……
また、心の奥にいるみたいな言葉を……」
いいねボタンに指を滑らせる。
自分でも、少し笑ってしまった。
(気づいたら、一番乗りで“いいね”してる私って……)
(なんで、こんなに気になるんだろう)
その夜、ことりはスマホを伏せて、
そっと胸に手を当てた。
「待ってたわけじゃないよ」
「……でも、来てくれてよかったって思った」
気づかぬふりをするには、
心の揺れが、あまりにも静かに、でも確かに、大きくなっていた。




