63.心が動きすぎる。苦しくなるほどに ― 姉が向き合い始める、もうひとつの揺れ
翌日の夜。
ことりは、自分の新しい投稿を準備しようとしていた。
でも、なぜか気持ちが乗らなかった。
(キャラは好きだし、衣装も整ってる。
でも、“今”の私は、どんな気持ちでカメラの前に立てばいいの…?)
浮かばないキャプション。
迷う構図。
なんとなく、ピントが合わないまま、時間だけが過ぎていく。
そんなとき――
ふと指が、“@trace_nao”のページを開いていた。
「……また見てる。私」
新しい投稿はまだなかった。
でも、昨日の投稿がそこにあって。
それを見るだけで、また胸の奥がざわめいた。
(この人の言葉、写真、目線……
どうしてこんなに…こんなに、苦しいの)
ことりは、自分の胸に問いかけるように、
ソファに座り込んでスマホを抱えた。
(“感動”とか“共感”とか、
そんな簡単な言葉じゃない)
(もっとこう……
自分の奥の、触れられたくなかったところに
やさしく手を伸ばされてる感じ)
しかも、どの投稿も、まるで「自分の過去」に話しかけてくるような感覚だった。
(やさしいのに、痛い。
癒されるのに、泣きたくなる)
(この人……どうして、こんなに“私”を見抜いてくるの…?)
しばらくして、ことりは
投稿作業をそっと閉じた。
今夜は、写真も撮らず、言葉も綴らず。
静かに、目を閉じることにした。
「trace_naoさん。
あなたの投稿、見れば見るほど苦しくなるんです。
でも、見ずにはいられないのは……
きっと、もう届いてるからなんだろうね」




