55.伝えたい。でも隠したい。でも伝えたい ― 言葉に宿る静かな葛藤
夜。
尚人は、ノートとスマホを交互に見つめながら、
キャプションを書く手を止めていた。
画面には、選び抜いた“あの1枚”。
目に感情が宿っている。
口元に、やさしさと切なさ。
あとは――言葉。
(普通のキャプションじゃ、足りない気がする)
(でも、言いすぎたら、姉ちゃんにバレるかもしれない)
(バレたくない。けど、届いてほしい)
尚人は、ノートにいくつもキャプション案を書き出す。
「笑ってるけど、守りたい気持ちは本物です」
→ 感情は出てる。でも、ちょっと直接的すぎるかも…
「“泣いてもいいよ”って、このキャラなら言う気がする」
→ キャラ愛はある。でも、姉ちゃんには届きすぎるかも…!
「この笑顔、誰かの力になれたらうれしいです」
→ シンプル。でも、ちょっと淡泊すぎる…
悩みに悩んだ末――
尚人は、姉の過去投稿のキャプションをもう一度読み返した。
「このキャラの“笑顔”は、“誰かを守る覚悟”だと思う」
その言葉が、静かに胸に響いた。
(俺も、“覚悟”でこの写真を撮ったんだ)
そして、尚人はこう書いた。
「“大丈夫”の裏に、
ほんとの気持ちを詰め込むことってあるよね。
この笑顔が、誰かの背中を少しでもそっと押せたら。
……そんな気持ちで撮りました。」
そして、キャプションの一番下に――
ごく小さな声で、そっと一言だけ添えた。
「p.s. “あの人”にも、いつか届きますように。」
(……これなら、気づかれない。
でも、俺の“想い”は、ちゃんと込めた)
尚人は、深呼吸をして画面を見つめた。
投稿ボタンは、まだ押していない。
でも、もう――
その言葉と写真は、“届ける準備”が整っていた。




