41.気持ちは、もうちょっと先へ ― 初めての“余裕”あるキャプション
夜。
尚人は机の上にスマホを置き、
画面に映る今日の“振り返りショット”をじっと見つめていた。
キャラの柔らかな目元。
ウィッグの毛先の動き。
自然な服のなびき。
「……うん。これは、出してもいいかもしれない」
前なら、“投稿する”ってだけでドキドキしていた。
けれど今は――
「この写真を、どう見せようか」という視点に変わっていた。
(キャプション、どうしよう…
あんまり硬くすると、せっかくの“空気感”が伝わりにくくなりそうだし)
尚人はノートを開き、キャプションの候補をいくつか書き出す。
「ふっと振り返ったら、そこにあなたがいた、そんな瞬間にしたくて。」
「動きの中の静けさ、みたいな写真が撮れました」
「自然体って難しいけど、ちょっと近づけた気がします☺️」
「…気づいた? 毛先、がんばってる(笑)」
(うーん、どれも悪くないけど、
ちょっとだけ“余裕感”が出せるといいな…)
しばらく悩んだ末、尚人はキャプション欄にこんな言葉を打ち込んだ。
「目が合ったその瞬間に、
言葉よりも先に“空気”が届くような――
そんな写真を目指してみました。
…たぶん、毛先がいい仕事してくれたと思います(笑)」
読み返すと、ちょっとだけ照れくさい。
でもそこには、“ただ必死に伝えたい”だけじゃなくて――
“見てくれた人と一緒に楽しむ”という気持ちが、ちゃんと込められていた。
(俺、今、楽しめてるんだな…)
尚人は投稿ボタンに指を置き、小さく笑った。
「行ってこい、今日のベストショット」
そして、静かに――ボタンを押した。




