25.たったひとつの“いいね” ― 誰かが見てくれた、世界が動いた瞬間
日曜日の午後。
投稿してから数時間が経っていた。
尚人は、ソファに座ったまま、スマホを開けずにいた。
怖かった――わけじゃない。
でも、どこか“今の気持ち”を、そっと味わいたい気持ちの方が大きかった。
(見てもらえたかな……誰か、見てくれてたら)
何度かスマホに手を伸ばしかけては、やめる。
そんなことを、何度も繰り返していた。
夕方。
ふと、スマホの通知が1件だけ表示された。
「@trace_nao に 1件のいいね があります」
(……!!)
画面を開く指先が、ほんの少し震える。
表示されたのは――
知らないアカウントからの「いいね」。
でも、それはきっと、同じように“好き”を大切にしている人からだった。
尚人は、しばらくその画面を見つめたまま、
なにも考えられなかった。
(ほんとに……見てくれた人がいたんだ)
じんわり、胸の奥があたたかくなる。
(俺の“なりたい”を、誰かが「いいね」って思ってくれた)
すぐにそのアカウントを見に行ったわけでもない。
お礼の言葉を送るわけでもなかった。
でも――
“世界のどこかの誰かが、自分の一歩に触れてくれた”
それだけで、もう十分だった。
尚人は、ノートにそっと書いた。
「“伝わる”って、こんなに嬉しいんだな」
「この1件の“いいね”は、俺の宝物だ」
そして、少しだけ迷ってから――
メモの最後に、こう記した。
「次も、ちゃんとやってみよう。
この“好き”を、もう少し大きくしていきたい。」




