24.投稿ボタンのむこうに ― はじめて、自分を見せる朝
朝。
カーテンのすき間から差し込む光が、部屋をゆっくりと照らしていく。
尚人は、ベッドの中でスマホを握っていた。
画面には、昨夜書いたキャプションと、あの一枚の写真。
「“なりたい”って気持ちだけで始めました。
まだ不器用だけど、ずっと憧れていたキャラです。
見てくれた人が、ちょっとでもやさしい気持ちになれたら嬉しいです。」
(今日、投稿しようって……昨日、決めたんだよな)
緊張していた。
だけど、昨日よりもほんの少しだけ、「やってみたい」が強かった。
コーヒーを淹れて、机に向かう。
鏡を見て、ぼさぼさの髪を手ぐしで整える。
(たぶん、世界は大きく変わらない。
でも、俺の中の“景色”は、きっと変わる)
ふと、姉ちゃんの言葉が蘇る。
「完璧じゃなくても、自分で作ったって思えるだけで、
愛着って湧くんだよね」
(うん。今の俺、たぶん、ちゃんと“作った”)
スマホを握りしめて、深呼吸をひとつ。
「@trace_nao」
投稿:1件
下書き:保存中
尚人の親指が、“投稿する”ボタンの上にゆっくりと降りていく。
指が震える。
だけど――
「投稿しました」
通知音が鳴ったわけでもない。
部屋の空気が変わったわけでもない。
でも――
心の中の空が、すっと広がった気がした。
(投稿、できた)
画面の中には、
キャラになりきった自分の姿。
そして添えた言葉は、
いつかの自分を、きっと救ってくれる一文。
尚人はスマホを伏せて、カップを手に取った。
「見てもらえたら嬉しいな。
でも、今は……これだけで、充分だ」
静かな朝。
でも、そこには確かな“はじまり”があった。




