23.この1枚に、なにを添えよう ― 初投稿のドアの前で
深夜0時を少し過ぎたころ。
尚人はパソコンの前で、画面に映る写真を見つめていた。
それは、あの――“残したいと思った1枚”。
メイクも、衣装も、小道具も。
どれもまだ初心者の域だけど、
自分の“なりたい”がぎゅっと詰まった一枚だった。
(…これを投稿するかどうか、なんだよな)
もうアカウントはできている。
プロフィールも書いた。
でも――
この“投稿”のボタンだけが、今はやけに重たく感じていた。
(……何を言えば、いいんだろう)
キャプションの入力欄に、何度も文章を打っては消す。
「はじめまして。初投稿です」
(無難すぎて、誰の心にも届かなさそう)
「まだ初心者ですが、頑張ってます」
(気持ちはあるけど、弱い)
「“なりたい”って気持ちだけで動いてます。
まだ下手かもしれないけど、大事な一歩です。」
(…これ、ちょっと…いいかも)
ふと、尚人は姉のアカウントを開いた。
何年か前の初投稿。
そこには、こんな文章が残っていた。
「はじめまして。
ずっとやってみたくて、でも勇気が出なくて。
でも“好き”って気持ちがあふれて、はじめました☺️」
(…なんだよ、やっぱ姉ちゃんも、最初は不安だったんだ)
尚人は、静かに笑った。
「俺も…いま、あふれてるのかもしれない」
再びキャプションに向き合う。
ゆっくりと、言葉を打つ。
「“なりたい”って気持ちだけで始めました。
まだ不器用だけど、ずっと憧れていたキャラです。
見てくれた人が、ちょっとでもやさしい気持ちになれたら嬉しいです。」
送信ボタンは、まだ押さなかった。
でも尚人は、その文章をそっとコピーして、メモ帳に保存した。
「今日は投稿しない。
でも、ここまで来れたってことが、何より嬉しい。」
初投稿の準備は、整った。
あとは――
ほんの少しの、勇気だけ。




