22.たった一文に、全部を込めたくなる ― プロフィールの迷いと、小さな勇気
夜のデスク。
パソコンの画面には、ようやく決まったSNSの新しいアカウント名が表示されていた。
@trace_nao
キャラの“足跡をなぞる”という意味と、
まだ自分が“なりきれていない未完成の存在”であることを込めた名前。
尚人は、静かにその文字を見つめながら、
次に入力すべき空欄へと視線を移す。
「プロフィールを入力してください(最大80文字)」
(……さて、どうするか)
ふと、姉のアカウントを開いてみる。
「好きなキャラを、好きなときに。
自分らしく、のびのびと☺️」
シンプルだけど、どこか誇りと自信がにじむ言葉。
尚人は、胸がぎゅっとなった。
(俺には、まだそんな風に言い切れるほどのものはない)
けれど、伝えたいことはあった。
まだ始めたばかりだけど、
誰よりも真剣に、このキャラを大事にしたい――そんな気持ち。
何度も、打っては消してを繰り返す。
「初心者です。やさしくしてください」
(…なんか違う)
「はじめたばかりですが、がんばります」
(無難すぎて、自分じゃない)
「まだ未熟。でも、ちゃんと“好き”がある」
(……少し近づいた)
ふと、尚人の心に浮かんだのは――
姉が前に話していた、マカロンの話だった。
「形が崩れても、自分で作ったって思えたら、
それだけで、愛着って湧くんだよね」
(……そうか。完璧じゃなくてもいい。
このプロフィールも、“今の俺”でいいんだ)
尚人は、ゆっくりと文字を打ち込んだ。
「まだ形になりきれてないけど、
“なりたい”を大事に育てていきたいです。」
決してキラキラした自己紹介じゃない。
でも――
今の彼にしか書けない、“まっすぐな言葉”だった。
保存ボタンを押す前、尚人は深呼吸をひとつして、
指先にこめられた小さな勇気で、静かにクリックする。
@trace_nao
まだ形になりきれてないけど、
“なりたい”を大事に育てていきたいです。
そのアカウントが、
世界にひとつだけの、“尚人自身の証”となった。




