16.こっそり参考中 ― 姉の投稿、でもバレたくない…!
ある夜。
尚人はデスクにメイク道具を並べて、
スマホを脇に置きながら鏡の前にいた。
(アイラインの引き方、まだイマイチなんだよな…)
メイク初心者動画はたくさん観たけど、
“キャラっぽく見せる目元”に関しては、
やっぱりリアルな実例がいちばん参考になる。
(そういえば…姉ちゃんの昔の投稿に、
目元メイクのドアップ写真あったよな…)
尚人は、SNSの「RINA_cos」アカウントをそっと開いた。
過去投稿をスクロールしていく。
日付が数年前にさしかかったころ――あった。
「このキャラの目元は“切れ長”に見せたいので、
アイラインは少し長めに跳ね気味に引いてます☺️」
写真には、ウィッグとカラコンをつけた姉の“キャラ顔”が映っていた。
(すご…こんなに細かく工夫してたんだ)
尚人は、その写真を参考にしながら、
そっと自分の目元にアイラインを引いていく。
(……お、意外と、それっぽいかも?)
嬉しくなって、もう一枚、別のキャラの投稿も見ていたそのとき――
RINA_cos:あっ、珍しく通知きてる?
(えっ……!?)
開きっぱなしだった姉のSNSアカウントに、
なんと「いいね」が誤って押されていた。
(や、やばい!!押した!?俺、押した!?)
慌てて取り消す。
でも、指先は汗ばんでいて、なんだか手元がおぼつかない。
その投稿は2年前のもの。
しかも、フォロワー以外ではほとんど反応がない静かな投稿だったから――
姉が気づく可能性は…低い、はず。
でも尚人の心はバクバクだった。
(…見てたの、バレたら変に思われる…よな?)
だけど――
スマホを手放したあと、ふと、尚人は思った。
(……でも、やっぱ姉ちゃんってすごいよな)
バレたくはない。
でも、心の中ではちゃんとリスペクトしてる。
そして、たぶん――いつかは、隣に立ちたい。
尚人は、鏡の中の“ちょっとだけ仕上がってきた自分”に向かって、小さく微笑んだ。
「…ありがとう、姉ちゃん。勝手に参考にしてごめん」
まだ秘密。
でも、その秘密は、確実に前に進んでいる。




