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ふたりで灯す、やさしさのかたち  作者: 流浪の旅人
第2章 ふたりで、ゆっくり歩き出す — “やってみたい”が、芽吹いた日
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15.あと少しだけ、近づきたい ― 新しい“道具”への扉

休日の午後。

衣装を着て、鏡の前に立つことにも、もう抵抗はなくなっていた。


尚人は、ふと顔を覗き込んで、静かに思う。


(…このままでも“それっぽい”けど、

やっぱり“顔の印象”って大事だよな)


スマホを手に取り、

お気に入りのコスプレイヤーたちの写真を拡大して見比べてみる。


「目元のシャドウが薄く入ってる」

「口角にちょっとグロス…?」

「眉の角度…あ、自然に見せる工夫してるんだ」


(なるほど…ああいうのって、ただ派手にすればいいんじゃないんだ)


その日、尚人は初めて「メイク用品」のことを真剣に調べた。


「男 コスプレ メイク道具 初心者」

「女装じゃなく 中性的 メイク」

「ナチュラルメイク コスプレ キャラに近づくには」


検索結果に並ぶのは、見慣れない単語の数々。


「アイブロウ」「シェーディング」「ノーズシャドウ」

「ビューラー」「マスカラ」「スキンケア下地」


(うわ、思ってたより奥が深い…!)


でも、奥深いからこそ、面白そうだった。


次の日、尚人は人通りの少ない駅ビルの中のドラッグストアに向かっていた。


帽子を深く被って、マスクをして、

ちょっと挙動不審なくらいキョロキョロしながら店内を歩く。


(とりあえず…アイブロウと、BBクリームと、リップくらいなら…)


手に取るたび、心臓がバクバクした。

でも、レジを通して小さな袋を受け取ったとき――


なぜか、ものすごく誇らしい気持ちになっていた。


その夜、尚人はメイク道具をひとつひとつ丁寧に並べて、

キャラの表情を真似しながら、鏡の前でそっと眉に色を乗せてみた。


(……あ、ちょっとだけ“あの子”に近づけたかも)


小さなアイテム。

でも、それは大きな一歩だった。


「この世界、楽しいかもしれない」


尚人の中で、“なりたい”は

“なれるかもしれない”に変わっていた。

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