14.すこしずつ、すこしずつ ― 衣装に馴染む日々
衣装が届いてから、一週間が経った。
尚人は、休日のたびにそっとクローゼットを開け、
少しずつその制服に袖を通すのが習慣になっていた。
最初のうちは、ただ着てみるだけで満足していたけれど、
最近は、鏡の前でポーズを取ってみる時間も増えてきた。
「足は、もう少しこうか…」
「手の角度、こんな感じ?」
「肩の力抜くと、それっぽく見えるかも」
スマホに保存した参考画像と、鏡の中の自分を交互に見ながら、
表情や姿勢を真似してみる。
「……ふふ、そういうところ、変わってないな」
キャラのセリフを口にするとき、
自分の声がちょっと照れくさくて、でも、
不思議と“自分じゃない誰か”として振る舞うことが、心地よくなっていた。
ある夜、尚人はウィッグをつけたまま、
軽く踊るように部屋の中を歩いてみた。
リズムに乗るようにステップを踏んで、
ソファの前でくるっと回る。
思わず、笑みがこぼれた。
(なんだこれ…ちょっと楽しいかも)
衣装に袖を通すたびに、
「見られること」よりも「なりきること」が楽しくなっていた。
それはたぶん――
もう誰かの真似じゃなくて、“自分のコスプレ”になり始めていたから。
その日の夜、尚人はノートにこう書いた。
【なりきりメモ】
・姿勢:胸を開くと表情が柔らかく見える
・表情:あえて目線を外してみるとキャラっぽい
・動き:小さな仕草にも意味がある
→鏡を使って、動きごと覚えてみる
→“このキャラならこうする”を考えるのが楽しい
そして最後のページに、そっと一言。
「次は、ちゃんと写真、撮ってみようかな。」
衣装は、もう自分の一部になりはじめていた。




