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第二話 蠱毒

しばらく歩いたが、見渡す限り、ほかに人の姿は見当たらない。

「縮めたといっても、なかなか広いよなぁ」

ドッ!

突如、後ろから何かが肩に当たった――

「……がっ!」

瞬間、激痛が走る。

カツン

「……石?」

肩に当たって落ちたものを見る。

「なんや、よう使わんわ」

とっさに、声のした方を振り向く。

五十代くらいの、恰幅のいいハゲ頭の男が、右手で首筋をポリポリと掻きながら呟いた。

「すまんのぉ、兄ちゃん」

男の周りの地面から、数個の石が浮かび上がる。

「……っ!」

危険を察知し、僕は近くの車の陰に飛び込んだ。

ドドドドドッ!

浮かんだ石が、車に向かって勢いよく飛んでくる。

「はぁっ……はぁっ……」

「躊躇なしかっ!」

荒い息を吐きながら、車の窓越しに男の様子を窺う。

男は、近くにあった車に手を向けた。

「……」

車には、何の変化もない。

「……チッ!」

「レベル1だと、こんなもんかぁ」

どうやら、石ころと同じように車を動かそうとしたらしい。

「なぁ、兄ちゃん!」

男が大声で僕に話しかける。

「大人しく、腕輪渡してくれんかのぉ!」

男は、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

「おっさん、そんな動かれへんのや」

「運が悪かったと思って、腕輪置いていきぃや」

「……っ」

確かに、男の言うとおりだ。

今の僕には、対抗する手段がない。

けど――

見たところ、体力はなさそうだ。

「タイミングを見て、全力で逃げるか……」

辺りを見渡し、逃げる経路を探る。

「きゃぁあっ!」

突如、女の悲鳴が上がった。

声のした方を見ると、少し先で女性が尻もちをつき、男を怯えるように見つめていた。

「……」

男は一瞬、考えるような素振りを見せると、ニヤリと笑った。

「あぁ、逃げてええよ、兄ちゃん」

「あっちはワシがもらうけぇ」

男はポケットから数個の石を取り出し、空中へと浮かせた。

「……クソッ!」

咄嗟に近くの看板を手に取り、僕は女性に向かって走り出した。

男は、走る僕に向かって石礫を浴びせる。

ドドドドッ!

「うっ……!」

看板で防いだものの、いくつかの石が身体をかすめた。

だが、致命傷には至っていない。

ザザッ!

「走れますか!?」

女性のもとへ駆け寄り、声をかける。

「え、ええ……!」

僕は看板を男に向けたまま、女性に合わせてゆっくりと立ち上がった。

「……?」

視界がぐらりと揺れる。

足に力が入らず、僕はその場に倒れ込んだ。

「……え?」

身体が痺れている。

手足に力が入らず、動かすこともできない。

男が僕の目の前まで歩み寄り、見下すように口を開いた。

「すまんのぉ、兄ちゃん」

「大人って、こーゆーもんなんや」

わずかに顔を動かし、女性の方を見る。

すると――

女性もまた、男と同じように僕を見下ろしていた。

片方の口角を上げ、薄ら笑いを浮かべている。

「お前もなかなかの演技派やのぅ」

「現世に戻ったら、女優でも目指そうかしら」

そう言って、二人は僕の目の前で笑い合った。

……騙された。

男だけじゃない。

この女性も、最初からグルだったんだ。

男が僕の左手首から、腕輪を取り上げる。

「まぁ、まだ始まったばかりや」

「適当な相手見つけて、頑張りぃや」

抵抗しようにも、手に力が入らない。

「死ぬんか、コイツ?」

男が女性に尋ねる。

「さぁ? レベル1だから、しばらくしたら動けるんじゃない?」

二人はそんな会話を交わし、また笑った。

ガリッ……

倒れたまま、僕は地面を指で削った。

『甘かった……』

何も考えず、つい助けに入ってしまった自分に腹が立つ。

ここは、そういう世界じゃない。

その現実を、身をもって思い知らされた。

「クソッ……!」

全部を救えるほど、今の自分に力も余裕もないことくらい、わかっていただろう。

それでも――

悔しい……悔しくて堪らない。

僕は、そんな思いを抱えながら、去っていく二人を見つめていた。

ズンッ!

「……え?」

突如、去っていく二人が地面に倒れ込んだ。

「あ……がっ……!」

二人は苦しそうな声を漏らす。

タタッ

そこへ、二人の男女が空から降り立った。

そして、倒れている二人の腕から、それぞれ腕輪を抜き取る。

「ちょっと、仁。殺してないでしょうね?」

どうやら、倒れている二人は意識を失っているようだ。

「殺すかよ。こんなやつら殺ったって、目覚めが悪いだけだろ」

そう言いながら、二人は奪った腕輪を自分たちの腕輪に合わせた。

ズズッ……

二人の目の前に、銀色の扉が現れる。

「おぉ、なんか異世界って感じだね!」

「はしゃぐなよ、恋華……。いい年して」

ビシッ!

「二十歳のお姉さんに、いい年とは何だっ!」

恋華は仁の尻を軽く蹴った。

「……」

仁が、ふと僕の方をちらりと見る。

そして、何かを投げてよこした。

カランッ――

足元に転がってきたのは、奪われた僕の腕輪だった。

「まぁ、とんだ甘ちゃんだけど、気持ちはわかるぜ」

「素直じゃないなぁ、仁くんは」

恋華はニヤリと笑い、横目で仁を見る。

「うっせ!」

二人は扉を開く。

「待って!」

僕は二人に呼びかけた。

「あんたたちは……?」

二人は互いに顔を見合わせ、答えた。

「真田 仁だ」

「南條 恋華だよ」

「別に、借りだなんて思うなよ。オレの気分だ」

そう言って、二人は扉をくぐっていく。

「ファイト!」

恋華は胸の前で拳を握り、明るく声をかけると、扉の向こうへ消えていった。

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