第九十一話 全員集合、それから南都へ
豊守神社の境内に、久しぶりに、賑やかな声が戻ってきた。
「――遅いのじゃ、紡樹! 妾、ずっとファミチキ待ってたのじゃぞ!」稲荷が、頬を膨らませて出迎えた。
「ごめんごめん、氷室冴さんたちのこと、片付けてきたんだ」紡樹は苦笑しながら、両手に提げた袋を掲げた。「これ、みんなの分」
境内には、阿形、密迹、吽形、稲荷、温羅、土蜘蛛、将門、人柱の霊、そして葵の姿があった。
「聴聞の後、それぞれ機構への手続きやら、常宮との調整やらで、しばらくバタバタしてたんですよ」葵が、書類の束を抱えたまま説明した。「――俺も、ようやく落ち着きました」
「儂は、久方ぶりに暴れられなくて、体がなまっておったわい」将門が、腕をぐるぐると回した。
「予たちは、それぞれの由緒を、正式に機構へ届け出ておった」温羅が、腕を組んだまま言った。「面倒な手続きよ。……だが、悪くない心地だったな」
紡樹は、皆の顔を見渡し、ふと気づいたように言った。
「そういえば、二上山の後、みんなでちゃんと集まるの、これが初めてだね」
「そうだったのじゃ」稲荷が、目を丸くした。「言われてみれば、いつの間にか、バラバラになっておったのう」
「それぞれの事情があったからね」結樹が、肩をすくめた。「僕も、常宮との橋渡し役の仕事で、しばらく身動きが取れなかったし」
密迹だけが、少し離れた場所で、静かに懐に手を当てていた。その仕草に、紡樹は目を留めた。
「密迹さん、その欠片……」
「ああ」密迹は、静かに頷いた。「那羅延の、欠片よ。……ずっと、懐に収めたままでおった」
「約束、忘れてないよ」紡樹は、密迹の隣に立った。「那羅延さんの本体、まだどこかにあるかもしれないって話。……ちゃんと、探しに行こう」
密迹の目に、微かな光が宿った。
「――我は、その言葉を、待っておったのかもしれぬ」
「南都焼き討ちの現場……今の奈良のどこかだよね」紡樹は、地図を広げた。「まずは、荒法師山の覚山さんに、もう一度話を聞きに行くのがいいと思う」
「儂も行くぞ」将門が、真っ先に手を挙げた。
「妾も行くのじゃ! ファミチキは持参で!」
「僕も」結樹が、頷いた。
阿形が、密迹の肩に、ぽんと手を置いた。
「相棒の話じゃないですか。俺たちが、行かないわけないであります」
――《全員集合、いいなあ……》
――《密迹さん、ずっと寂しかったんだろうな》
――《那羅延編、ついに動き出すのか》
密迹は、しばらく黙っていたが、やがて、深く頭を下げた。
「……皆、感謝する」
大勢の足音が、豊守神社の石段を降りていく。長い旅の、また新しい一歩が、南都へと向けて踏み出されようとしていた。




