第八十五話 もう一度、証を立てる
鏑木は、崩れた石畳の上に持参の折りたたみ椅子を広げ、涼しい顔で腰掛けた。
「まず、お伝えしておきます。今回の一件は、発動配信システムを通じて、過去最大級の同時接続数を記録しました。……由緒管理機構としても、前例のない事態です」
「それは、良いことなんですか?」紡樹が恐る恐る尋ねると、鏑木は肩をすくめた。
「世論的には、間違いなく追い風です。八柱もの由緒――しかも、これまで『祟り神』『怨霊』の類に分類されていた語り部衆側の存在が、力ずくの制圧ではなく、対話によって和解した。この記録は、機構内でも波紋を呼ぶでしょう」鏑木は端末を操作しながら続けた。「ですが」
「ですが?」
「制度は、そう簡単には追いつきません」鏑木は、温羅たちの方に視線を向けた。「彼らを、今後どう扱うか。……野放しにしていい存在なのか、正式に登録すべきなのか、機構にも常宮にも、まだ明確な答えがありません」
「予たちは、誰かに管理されるために、ここにいるのではないぞ」温羅が、腕を組んだまま低く唸った。
「その通りです。だからこそ、慎重にならざるを得ません」鏑木は、静かに頷いた。「そして、もうひとつ。……松田結樹さん。あなたは、過去に常宮部隊を戦闘不能にしています。汐乃宮での一件、記録に残っていますね」
結樹の表情が、僅かに強張った。
「はい。……分かってます」
「和解の経緯がどうあれ、機構としては、形式上、聴聞にかけざるを得ません」鏑木は、淡々と告げた。「――ちょうど、数年前、氷室冴さんが受けたのと、同じ手続きです」
その名前に、その場の空気が、一瞬張り詰めた。
「聴聞、って……」宵が、思わず声を上げた。「あれは、父を、あんな目に……」
「今回は、状況が違います」鏑木は、宵の言葉を遮らずに、静かに続けた。「あの時とは違い、今は、この一部始終を見ていた視聴者がいます。……そして何より、あなたたちが、それぞれの言葉で、証言できる」
紡樹は、結樹の肩に、そっと手を置いた。
「大丈夫。……今度は、ひとりで聴聞を受けさせたりしない」
「僕は……」結樹は、俯いたまま、小さく笑った。「そういうところ、本当にずるいと思うよ、君は」
――《結樹くん、頑張れ……》
――《みんなで証言するって、心強すぎる》
――《氷室冴さんの時と全然違う展開になりそう》
鏑木は、小さく微笑んだ。
「聴聞は、三日後。場所は、顕れの常宮です」鏑木は、端末をしまいながら立ち上がった。「――今度こそ、正しい形で、証を立ててください」
風が、崩れた二上山の平地を、静かに吹き抜けていった。長い旅の終わりに、また新しい試練が、静かに幕を開けようとしていた。




