↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
85/96

第八十四話 配信、続けます



風が止み、二上山の空に、静かな青が戻ってきた。


紡樹が体を起こすと、周囲には、見慣れた顔が揃っていた。阿形、密迹、稲荷、吽形。そして、温羅、土蜘蛛、将門、人柱の霊。かつて対峙した八つの由緒が、今はみな、穏やかな表情で、こちらを見ていた。


「おい、小僧。無事か」温羅が、腕を組んだまま歩み寄ってきた。「随分と、危なっかしい真似をしおって」


「心配、してくれたんですか」紡樹が笑うと、温羅はふん、と鼻を鳴らした。


「――当然であろう。せっかく認めた相手が、あっさり死んでは、寝覚めが悪いわ」


「稲荷さんも、大丈夫?」紡樹が尋ねると、まだ石の肌に罅の残る稲荷が、にっと笑ってみせた。


「妾は平気なのじゃ。……それより、約束のファミチキ、忘れるでないぞ」


その横で、人柱の霊が、輪郭を微かに揺らしながら頷いた。


「……忘れては、ならぬ」


思わず、その場に笑いが広がった。将門が豪快に笑い、土蜘蛛の重なる声も、どこか楽しげに響く。吽形だけは相変わらず無表情だったが、その口元が、微かに緩んでいるのを、密迹だけが見逃さなかった。


結樹は、少し離れた場所で、その光景を静かに眺めていた。紡樹が近づくと、気まずそうに視線をそらす。


「……その、なんだ。改めて、悪かった」


「もう聞いたよ、それ」紡樹は苦笑した。「それより結樹、これからどうするの?」


「さあ、な」結樹は肩をすくめた。「語り部衆のことは、まだ、ちゃんと考えないといけない。……でも、少なくとも、ひとりで抱え込むのはもう、やめる」


紡樹は、ポケットからスマホを取り出した。画面には、まだ配信が続いていた。膨大な数のコメントが、途切れることなく流れている。


――《紡樹くん、無事だ……!!》

――《結樹くんも生きてる、よかった……》

――《これ、伝説の回になるだろ……》

――《みんな仲良くなってて草》


紡樹は、カメラの前に座り直した。


「――えっと、みなさん。お待たせしました」


コメント欄が、一斉に沸いた。


「決着、つきました。……というか、決着っていう言葉、あんまり合ってないかもしれません。誰も、負けたままじゃなかったから」


――《温羅さんも土蜘蛛さんも、めっちゃ良い笑顔してる》

――《これが本当の意味での"対"なんだな》


「最初にこの配信を、最終回にするって言った時――正直、僕、ちゃんとした終わり方って、どういうものか分かってなかったんです」紡樹は、隣に座った結樹をちらりと見た。「でも今は、分かる気がします。終わりって、途切れることじゃなくて……ここから先も、続けていくためのものなんだって」


――《いい……泣ける……》

――《じゃあ配信は終わらないってこと?》


「はい」紡樹は、少し照れくさそうに笑った。「まだまだ、やることが残ってるので。……最終回とか言っておいて、すみません。これからも、配信、続けます」


――《おい詐欺じゃないか(歓喜)》

――《最初からそう言ってくれ、心臓に悪い》

――《続くならそれでいい、ずっと見てるから》


その時、麓の方から、見覚えのある公用車が一台、土煙を立てて近づいてくるのが見えた。運転席から降り立ったのは、由緒管理機構の調査官、鏑木彰だった。


「――随分と、賑やかな決戦だったようですね」鏑木は、崩れた地面と、寄り添う八人の由緒たちを見渡しながら、小さくため息をついた。「機構としても、色々と、確認しなければならないことが増えました」


紡樹たちの顔に、微かな緊張が走った。長い旅の、本当の意味での後片付けは、まだ、これからのようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。