第七十四話 金の鳥居、開く
決戦の地へ続く道の途中、白の鳥居や黒の鳥居とはまた違う、金色に輝く鳥居が、行く手に浮かび上がった。
「これは……」紡樹が身構える。
鳥居の奥から現れたのは、墨染めの袈裟を纏った、幾人もの僧侶たちだった。先頭に立つのは、深い皺を刻んだ老僧――その眼光は、これまで出会ったどの由緒管理者とも違う、静謐な鋭さを湛えていた。
「――浄土の常楽宮、座主の円明と申す」
「浄土の常楽宮……?」紡樹が首を傾げる。
密迹が、驚いたように目を見開いた。
「まさか、純粋な仏の教えのみを守り抜いてきたという、あの一派か」
円明は、静かに頷いた。
「顕れの常宮が神道の純粋を守るならば、我らは、仏の教えの純粋を守る者。……長らく、表舞台には出てこなんだが」
「僕らのことを、知ってたんですか」
「無論。両属性を宿す者の噂は、我らの耳にも届いておった。……正直に言えば、神仏を混ぜ合わせるお前のあり方に、思うところがないわけではない」
紡樹は、緊張しながら頷いた。
「でも、ここに来たってことは……」
「この決戦、放っておけば、光と影、いずれかに大きく傾く。……仏の教えの静けさを守る我らとしても、看過はできぬ事態だ」円明は、静かに続けた。「お前が負けを覚悟しておるという噂も、耳にした」
紡樹は、思わず目を伏せた。
「……正直、勝てる保証はないです。結樹たちの力は、本物ですから」
円明は、懐から一巻の経文を取り出した。
「これを持っていくがよい。……仏の加護、というほど大層なものではないが、お前の中の『仏気』を、少しばかり後押しするだろう」
「ありがとうございます」
「礼はいらぬ」円明は、静かに笑った。「我らも、神仏習合が単なる混同ではなく、正しい理解の上に成り立つものだと、お前の旅を通して学ばせてもらった。……いわば、これは礼だ」
密迹が、深々と頭を下げた。
「浄土の常楽宮の僧たちよ、感謝する」
円明たちは、静かに一礼し、金の鳥居の光の中へと姿を消していった。
紡樹は、手にした経文を、そっと胸に抱いた。
「これで、少しは……」
「うむ」密迹が頷いた。「神社、寺、両方から、確かな後押しを得た。……あとは、我らの覚悟次第だな」
一行は、改めて、決戦の地へと歩みを進めた。四つの勢力が、それぞれの形で、この一戦に想いを託していた。




