第七十三話 白の意志
決戦の地へ向かう鳥居渡りの直前、行く手を阻むように、幾つもの白い鳥居が立ち並んだ。
くぐって現れたのは、白装束の一団――その先頭に立つのは、これまで一度も姿を見せなかった、常宮の最高位の巫女だった。
「――本田宵。鈴木葵。そこを動くでない」
「常宮の……大宮司様」葵が、驚いたように息を呑んだ。
大宮司と呼ばれた老女は、静かに一同を見渡した。
「忌み子の予言、その真相が世に知れ渡った今、常宮の権威は地に落ちた。……お前たちが、これ以上、勝手な真似を続けるならば、常宮として看過はできぬ」
宵が、一歩前に出た。
「わたしは、常宮の巫女である前に、ひとりの人間として、ここに立っています。……大宮司様、あなた方が隠し続けてきたものの重さを、少しは分かっていただけましたか」
大宮司の目が、微かに揺れた。
「……分からぬ、とは言わぬ。だが、常宮には常宮の役目がある。純粋な神道の力を守り、伝えることも、また大切な使命だ」
「その使命のために、ひとりの人間を、恐れの対象として育てていいとは思いません」宵は、まっすぐに大宮司を見据えた。
葵が、静かに宵の隣に並んだ。
「大宮司様。……俺も、宵と同じ考えです。常宮の名代としてではなく、ひとりの人間として、彼らと共に行きます」
大宮司は、しばらく沈黙した後、深く息を吐いた。
「……お前たちの覚悟、確かに見た」
大宮司は、懐から一枚の御札を取り出し、宵に手渡した。
「これは、常宮に伝わる、浄化の御札だ。……お前を縛るためではなく、お前を守るために、渡しておく」
「大宮司様……」
「常宮は、変わらねばならぬのかもしれぬ。……だが、それを変える者が、お前たちのような者であるならば、悪くはないと思うておる」
大宮司は、静かに踵を返した。
「行くがよい。……常宮は、これ以上、お前たちの邪魔はせぬ」
白の鳥居が、静かに消えていった。紡樹は、宵の肩にそっと手を置いた。
「大丈夫?」
「はい」宵は、涙を堪えながら、力強く頷いた。「ようやく、少しだけ、認めてもらえた気がします」
一行は、改めて、決戦の地へと続く鳥居渡りへと足を踏み入れた。光の中に、静かな決意が満ちていた。




