第七十一話 最終回、配信します
出発の直前、紡樹はひとり、スマホのカメラに向き合っていた。
「――えっと。今日は、いつもと違う配信になると思います」
画面の向こうには、いつもの見慣れたコメント欄が流れている。
――《おっ、今日は雰囲気違うな》
――《決戦って噂、マジ?》
――《ずっと見てきたけど、ここまで来たか……》
紡樹は、小さく息を吸った。
「思えば、最初の配信は、適性検査でエラー扱いされた僕が、半分やけくそで始めたものでした。……『バグ』って呼ばれて、腐ってた僕を見てくれてた人が、こんなにいるなんて、当時は思ってもみなかった」
――《エラー配信からのここまで、感慨深い》
――《稲荷ちゃんとの出会いの回、何回も見返した》
――《氷室冴さんの回、マジで泣いた》
「稲荷、吽形、密迹、阿形――みんなと出会って。氷室冴さんと宵さんの、本当の関係が分かって。忌み子の予言の、本当の意味も分かった。……全部、この配信を、皆さんが見てくれていたから、辿り着けた答えでした」
紡樹の後ろで、阿形や稲荷たちが、静かにその言葉に耳を傾けていた。結樹もまた、この配信のどこかで、同じ言葉を聞いているかもしれない。
「今日、僕は、結樹と――僕の対の相手と、決着をつけに行きます。……これは、たぶん、僕がずっと続けてきたこの配信の、本当の意味での最終回になると思います」
――《最終回!? まって、心の準備が》
――《ここまで見てきた身としては、絶対勝ってほしい》
――《結樹さんとの決着、複雑な気持ちだけど見届ける》
紡樹は、画面越しの誰かに向けて、静かに微笑んだ。
「勝つとか負けるとか、それだけじゃなくて。……ちゃんと、納得できる形で終わらせたいと思ってます。最後まで、見届けてください」
宵が、そっと紡樹の隣に立った。
「わたしたちも、一緒です」
紡樹は頷き、スマホをそっとポケットにしまった。
「――行こう。最終回、始めよう」
一行は、鳥居渡りの光の中へと、静かに足を踏み入れていった。無数の視線に見守られながら、長い旅の、最後の一歩が始まろうとしていた。




