第六十九話 光と影、ふたつの理
豊守神社の社務所で、紡樹は静かに考えを巡らせていた。
「心紋も、傷紋も……結局、同じ仕組みなんだよな」
隣に座った氷室冴が、湯呑みを傾けながら頷いた。
「由緒を、正しく理解し、心から向き合う。それができて初めて、力になる。……お前たちの心紋も、結樹たちの傷紋も、入り口が違うだけで、原理はまったく同じだ」
「稲荷、吽形、密迹、阿形」紡樹は指を折りながら数えた。「僕らは、祀られ、守られてきた由緒から力を得た」
宵が、静かに続けた。
「結樹たちは、人柱の霊、温羅、土蜘蛛、平将門……歴史から虐げられ、消された悲劇から力を得ている」
「光と影、四対四か」氷室冴が呟いた。「まるで、鏡合わせのようだな」
紡樹は、拳をそっと握った。
「でも、僕らのやり方が正しくて、結樹たちが間違ってる、ってわけじゃないと思うんだ。……どっちも、ちゃんと由緒に向き合って、力を得てる。同じ土俵に立ってる」
「だからこそ、厄介なのだ」氷室冴は、静かに目を伏せた。「正邪の話ではない。……どちらの願いを、世が選ぶか、という話になる」
葵が、腕を組んだまま口を開いた。
「予言にあった『世を照らすか、呑み込むか』……それは、力の優劣で決まるものではないのかもしれぬな」
「じゃあ、何で決まるんですか」阿形が首を傾げた。
「――僕らが、どう在るか、だと思う」紡樹は、静かに答えた。「結樹は、消された者たちの無念を晴らすことに、迷いがない。……僕も、同じくらいの覚悟で、光の側に立たないといけない」
密迹が、深く頷いた。
「うむ。中途半端な覚悟では、対等な相手にはなれぬ」
紡樹は、朱印帳と対紋、両方にそっと手を当てた。
「結樹に会ったら、伝えたいことがあるんだ。……僕らのやり方も、間違ってないって。ちゃんと胸を張って、そう言えるように」
夕暮れの社務所に、静かな決意が満ちていった。四対四、光と影、ふたつの理が、いよいよ交わる時が近づいていた。




