第六十六話 繋がる異変
その日から、紡樹の胸は、幾度となく熱を持った。
一度目は、二上山を発って間もない頃。二度目は、麓の當麻の宿に泊まった夜。三度目は、つい先ほど。
「また、なのか……」
紡樹は、対紋の上からそっと手を当てた。熱はすぐに引いていくが、そのたびに、遠くで何かが起きているという、拭えない予感が募っていく。
「三回目、であります」阿形が真剣な顔で言った。「さすがに、偶然ではないと思うであります」
「妾もそう思うのじゃ」稲荷が頷いた。「結樹の奴、いったい何をしておるのか」
鏑木が、端末を操作しながら、眉をひそめた。
「……妙なニュースが、いくつか引っかかります」
「ニュース?」
「岡山県の鬼ノ城跡で、原因不明の地響きが観測されたと。それから、奈良県葛城山系で、登山者が『大勢の話し声のようなものを聞いた』という目撃談。……そして今日、東京・大手町の将門塚周辺で、一時的な停電と地震計の異常反応」
紡樹の背筋が、冷たくなった。
「それ、全部……」
「はい。おそらく、無関係ではないでしょう」鏑木は端末の画面を紡樹に見せた。「日付を並べると、紡樹さんの対紋が反応した時刻と、綺麗に重なっています」
宵が、青ざめた顔で呟いた。
「結樹、各地を回って……何かを、集めている?」
密迹が、懐の那羅延の欠片を強く握りしめた。
「あやつ、鬼ノ城、葛城、将門塚……いずれも、名のある無念の眠る地だな」
「語り部衆の力を、集めているのかもしれない」紡樹は、拳を握りしめた。「僕らの神使と、同じことを、あっちでもやってる」
葵が、静かに口を開いた。
「もしそうならば、次に会う時は、これまでとは比べ物にならない相手になっているだろうな」
紡樹は、皆の顔を見回した。
「約束、してくれたんだ。次に会う時は、ちゃんとお互い本気でぶつかれる状態にする、って。……それが、こういう意味だったなら」
紡樹は、深く息を吸い込んだ。
「僕らも、準備をしよう。負けないための準備を」
一行の間に、これまでとは違う、静かな緊張感が満ちていった。まだ見ぬ決戦の輪郭が、少しずつ、形を成し始めていた。




