第六十一話 追いついた光
「――待って。感じる」
紡樹は目を閉じ、対紋にそっと手を当てた。金と黒の糸が、遠くへと伸びていくような感覚があった。
「方角が、分かる気がする」
「本当か!?」阿形が身を乗り出す。
「西だ。……たぶん、山陽のどこか」
葵が眉をひそめた。「吉備の方角か。……あの地に伝わる、鬼と呼ばれた王の伝承があったな」
一行は、鳥居渡りを使い、古い山城の跡――鬼ノ城へと降り立った。
石垣の残る広場の中心で、結樹が、大柄な男の影に向かって手をかざしていた。烏帽子と、鍛冶場のような炎の気配を纏う影だった。
「結樹!」
紡樹の声に、結樹が振り返った。その顔に、動揺と、どこか諦めにも似た色が浮かんだ。
「……もう、見つかったか。存外、早かったな」
「これは、どういうことなんだ」
「見ての通りだよ」結樹は、隠すことなく答えた。「対紋の力で、悲劇を力に変える。……人柱の霊には、もう成功した」
密迹が、拳を握りしめた。
「まさか、冥の別宮を封じたのも……」
「僕の意志じゃない。あれは、彼が僕への礼にやったことだ」結樹は肩をすくめた。「だが、止めるつもりもない」
宵が、悲痛な声で言った。「結樹、どうして。……みんな、仲間だと思ってたのに」
「仲間だと思ってたのは、嘘じゃないよ」結樹の声に、初めて本物の痛みが滲んだ。「でも、僕には、譲れないものがある。消された者たち全員に、声と力を取り戻す。……それだけは、誰にも譲れない」
影の男が、まだ完成しきらない姿のまま、唸り声を上げた。
「危ない、まだ制御しきれてない!」結樹が叫ぶと同時に、影が暴走したように炎を撒き散らした。
「――皆、下がって!」紡樹が対紋の力を全身に纏わせ、金の光で炎を受け止める。
「――紡げ、歴史を!」
紡樹の一撃が、不完全なまま暴れる影を吹き飛ばした。結樹は、慌ててその場に割り込み、影を抱きとめるようにして、暴走を鎮めようとする。
「くっ……まだ、早すぎたか」
阿形と密迹が前に出て、結樹の逃げ道を塞いだ。
「結樹さん、大人しくしてください!」
結樹は、荒い息をつきながら、諦めたように両手を上げた。
「――今日のところは、僕の負けだ」
紡樹は、その言葉に、安堵よりも深い痛みを覚えた。
「なんで、こんなこと……」
結樹は、寂しげに笑った。
「いつか、分かってもらえるとは思ってない。……でも、僕は、僕のやり方で、歴史を取り戻す」
石垣の向こうに沈む夕日が、ふたりの間に長い影を落としていた。




