↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
62/96

第六十一話 追いついた光



「――待って。感じる」


紡樹は目を閉じ、対紋にそっと手を当てた。金と黒の糸が、遠くへと伸びていくような感覚があった。


「方角が、分かる気がする」


「本当か!?」阿形が身を乗り出す。


「西だ。……たぶん、山陽のどこか」


葵が眉をひそめた。「吉備(きび)の方角か。……あの地に伝わる、鬼と呼ばれた王の伝承があったな」


一行は、鳥居渡りを使い、古い山城の跡――鬼ノ城(きのじょう)へと降り立った。


石垣の残る広場の中心で、結樹が、大柄な男の影に向かって手をかざしていた。烏帽子と、鍛冶場のような炎の気配を纏う影だった。


「結樹!」


紡樹の声に、結樹が振り返った。その顔に、動揺と、どこか諦めにも似た色が浮かんだ。


「……もう、見つかったか。存外、早かったな」


「これは、どういうことなんだ」


「見ての通りだよ」結樹は、隠すことなく答えた。「対紋の力で、悲劇を力に変える。……人柱の霊には、もう成功した」


密迹が、拳を握りしめた。


「まさか、冥の別宮を封じたのも……」


「僕の意志じゃない。あれは、彼が僕への礼にやったことだ」結樹は肩をすくめた。「だが、止めるつもりもない」


宵が、悲痛な声で言った。「結樹、どうして。……みんな、仲間だと思ってたのに」


「仲間だと思ってたのは、嘘じゃないよ」結樹の声に、初めて本物の痛みが滲んだ。「でも、僕には、譲れないものがある。消された者たち全員に、声と力を取り戻す。……それだけは、誰にも譲れない」


影の男が、まだ完成しきらない姿のまま、唸り声を上げた。


「危ない、まだ制御しきれてない!」結樹が叫ぶと同時に、影が暴走したように炎を撒き散らした。


「――皆、下がって!」紡樹が対紋の力を全身に纏わせ、金の光で炎を受け止める。


「――紡げ、歴史を!」


紡樹の一撃が、不完全なまま暴れる影を吹き飛ばした。結樹は、慌ててその場に割り込み、影を抱きとめるようにして、暴走を鎮めようとする。


「くっ……まだ、早すぎたか」


阿形と密迹が前に出て、結樹の逃げ道を塞いだ。


「結樹さん、大人しくしてください!」


結樹は、荒い息をつきながら、諦めたように両手を上げた。


「――今日のところは、僕の負けだ」


紡樹は、その言葉に、安堵よりも深い痛みを覚えた。


「なんで、こんなこと……」


結樹は、寂しげに笑った。


「いつか、分かってもらえるとは思ってない。……でも、僕は、僕のやり方で、歴史を取り戻す」


石垣の向こうに沈む夕日が、ふたりの間に長い影を落としていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。