第五十五話 対紋、ここに刻まれる
膝をついたまま、双堂の主は静かに語り出した。
「わしの由緒を、まだ語っておらなんだな。……この二上山の麓には、かつて當麻の地に、ひとつの寺があった。曼荼羅を織り上げた中将姫の伝承で知られる寺だ」
「當麻寺、ですか」紡樹が呟いた。
「その寺には、東西ふたつの塔が並び立っておった。片方は神を、片方は仏を祀る――いや、正確には、ひとつの信仰の両面を、ふたつの姿で表していたのだ。麓の塔と、この山の頂に祀られたわし。……本来は、三位一体とも言うべき由緒であった」
密迹が、懐の那羅延の欠片を握りしめながら口を開いた。
「麓の塔は、今も残っておるのか」
「残っておる。分離令の嵐からも、かろうじて逃れてな。……だが、山頂のわしを祀る双堂は、片方が壊され、わし自身も、意識を保つのがやっとの有様になった」双堂の主は、寂しげに笑った。「麓の塔が生き延びたのは、幸いだった。だが、山の上のわしにまで、その幸運は及ばなんだ」
紡樹は、麓の方角を見下ろした。
「じゃあ、麓の寺に行けば、何か手がかりが……」
「おそらくな。だが、それは今日の話ではない」双堂の主は、紡樹と結樹を交互に見た。「今は、お前たちの対に、証を立てる方が先だろう」
双堂の主が右手を掲げると、空間に、これまで見たことのない、金と黒が縒り合わさった(よりあわさった)紋様が浮かび上がった。
「対紋、と呼ぶがいい。心紋とも、傷紋とも異なる、ふたりでひとつの証だ」
紋様が、紡樹と結樹、それぞれの胸に、静かに刻まれていく。
「……ッ!」
紡樹の中で、これまでとは違う感覚が広がった。ひとりで由緒を紡ぐ力とは別に、結樹の影の力と、常に呼応できるような、新しい繋がりが生まれている。
「これが、対紋……」結樹も、自分の胸に手を当て、驚いたように呟いた。
「これで、ふたりの力は、もう別々のものではない」双堂の主は、ゆっくりと立ち上がった。「離れていても、いざという時には呼応する。……対とは、そういうものだ」
宵が、そっと紡樹に歩み寄った。
「おめでとう、紡樹」
「ありがとう」紡樹は微笑み、それから双堂の主を見上げた。「麓の當麻寺のことも、いずれ必ず。……あなたの、もう半分のことも」
双堂の主は、深く頷いた。
「待っておるぞ。……真の意味で、この山とわしが、再びひとつになる日をな」
二上山に、静かな夕暮れが訪れようとしていた。




