第五十三話 双堂の主
礎石の奥、地面が大きく盛り上がり、砂煙とともに、巨大な影が姿を現した。
その姿は、異様だった。右半身は、烏帽子を纏う神の如き白い衣、左半身は、袈裟を纏う仏の如き墨染め――ひとつの体に、神と仏、両方の相貌が同居していた。
「ようこそ参られた」その声は、ふたつの声が重なり合うように響いた。「わしは、かつてこの二上山に祀られていた者。名すら、今はもう定かではない」
「あなたが、この山の……」紡樹が身構えながら言った。
「神仏分離の折、わしを祀る双堂は引き裂かれた。片方の社は残り、片方の堂は壊された。……そして、わし自身もまた、真っ二つに引き裂かれかけた」
密迹が、懐の那羅延の欠片を強く握りしめた。
「引き裂かれかけた、とは?」
「かろうじて、ひとつの意識として持ちこたえたのだ。……だが、それも限界が近い。長年、光と影、真の忌み子が現れる日を待ち続けておった」
巨大な影は、紡樹と結樹を、交互に見つめた。
「お前たちが、その対か。……見せてもらおう。ふたりで、真に境界を結び直せるだけの覚悟があるのかどうか、をな」
「見せろって、どうすれば」結樹が問う。
「わしを、鎮めてみせよ。力ずくでも、言葉でも構わぬ。……ただし、片方だけの理では、わしは鎮まらぬ。光と影、両方が揃わねば意味がない」
影の輪郭が、揺らめきながら膨れ上がっていく。神と仏、ふたつの気配がせめぎ合い、辺り一帯の空気を重く歪ませた。
「阿形さんたち、援護は……」紡樹が振り返ると、鏑木が首を振った。
「今回ばかりは、神使のみなさんの手を借りるのは、趣旨が違う気がします。……これは、紡樹さんと結樹さんの対話に近いものかと」
結樹が、肩をすくめながらも、覚悟を決めたように前へ進み出た。
「――仕方ない。付き合うよ、紡樹」
「うん」紡樹も頷き、朱印帳を強く握った。「一緒にやろう」
巨大な影が、ゆっくりと両腕を広げた。
「では、参るぞ。――示せ、光と影の理を!」
二上山全体が、轟音とともに震え始めた。




