第五十一話 二つの峰、ひとつの道
鳥居渡りの光が収まると、目の前には、ふたつの峰が並び立つ山が広がっていた。
「これが、二上山……」紡樹は思わず息を呑んだ。
雄岳と雌岳、ふたつの頂が、まるで対になるように寄り添っている。夕日を背に受けたその稜線は、これまで訪れたどの土地よりも、静かな威厳を纏っていた。
「双堂は、確か山の中腹だったはずです」鏑木が地図を確認しながら言った。「機構の記録によれば、ここはかつて、神を祀る社と、仏を祀る堂が、文字通り並んで建っていた土地とされています」
一行は、鬱蒼とした山道を登り始めた。
「妾、こういう厳かな気配、少し苦手なのじゃ」稲荷が肩をすくめる。
「僕も、今までとは違う重みを感じます」吽形が静かに周囲を見回した。
密迹は、懐に収めた那羅延の欠片に、そっと手を当てていた。
「この地に、何かが眠っておる。……それだけは、確かに分かる」
しばらく登ると、開けた場所に出た。そこには、朽ちかけながらも確かに残る、神社の社殿があった。だが、隣にあったはずの仏堂は、礎石だけを残して、跡形もなく消えていた。
「やっぱり、片方だけしか残ってないんですね」紡樹は、その礎石にそっと触れた。
その瞬間、朱印帳が、これまでにないほど強く熱を帯びた。
「――ッ!」
紡樹の脳裏に、一瞬、見たこともない光景が流れ込んできた。ふたつの御堂が並び立つ、在りし日の二上山。祈りを捧げる人々。そして、その中心に立つ、ふたりの人影――ひとりは光を纏い、もうひとりは影を纏っていた。
「今の、何……」
「紡樹?」宵が心配そうに顔を覗き込む。
「分からない。でも、確かに、見えたんだ。……ふたりの人影が」
氷室冴が、杖代わりの木の枝を突きながら、静かに口を開いた。
「わしも、かつてここを訪れた時、同じような幻を見た気がする。……あれは、単なる幻視ではないのかもしれぬ」
結樹が、いつになく真剣な顔で、崩れた礎石を見つめていた。
「――『二つの御堂、再び相並ぶ時』か。もしかして、僕らはとんでもない勘違いをしていたのかもしれないね」
「勘違い、って?」
結樹は答えず、ただ紡樹の顔をじっと見つめた。その視線には、これまでにない、何か確信めいた色が宿っていた。
山の奥から、低い地鳴りのような音が響いてきた。まるで、長い眠りから何かが目覚めようとしているかのように。




