第四十二話 白刃、渚に閃く
「――本田宵様。お迎えに上がりました」
凛とした声が、渚の向こうから響いた。
振り返ると、白の狩衣に身を包んだ武装の一団が、こちらへ向かって歩いてくるのが見えた。先頭に立つのは、抜き身の太刀を提げた、壮年の男だった。
「常宮の……直属部隊?」宵の顔が、みるみる強張った。
「無断で常宮を離れるとは、いい度胸だ、本田宵様」男が冷ややかに言った。「上層部の命により、力ずくでもお連れするよう申し付かっている」
「わたしはまだ、調べたいことが――」
「聞く耳は持たぬ。それが、我らの役目だ」
男が太刀を一閃させると、白い斬撃が空を切り裂き、宵めがけて殺到した。
「――させぬ!」
密迹が咄嗟に割って入り、素手で斬撃を受け止めた。石の腕に、鋭い斬線が走る。
「ほう。仁王の石身とは、面倒な」
「宵さんは、俺たちの仲間です!」阿形が拳を構えて前に出た。「勝手に連れて帰ろうなんて、通しません!」
「阿形、隊列を崩すな。数で来る相手だ」吽形が冷静に注意しながら、紡樹を庇うように前へ出る。
「発動配信システム、稼働確認……!」鏑木が震える手で端末を掲げた。「これは、常宮との正式な衝突として記録されます。ご了承ください」
白装束の一団が、一斉に得物を構えた。太刀、薙刀、弓――それぞれが、淡い神道の光を纏っている。
「妾たちに任せておくれ」稲荷が不敵に笑い、狐火を纏った。「宵殿を渡すつもりなど、毛頭ないのじゃ」
戦いの火蓋が切られた。
阿形が真っ先に踏み込み、拳に光を纏わせて敵陣へ突貫する。「――放て、破魔の一撃!」
金と紫の輝きを帯びた一撃が、盾を構えた敵兵ごと、その体を吹き飛ばした。
「速い……!」
「僕が背後を固めます」吽形が金と紫の壁を展開し、飛来する矢をすべて防ぎきる。「阿形、存分にやってください」
密迹は先頭の男と真正面から拳を交え、その一撃一撃に「――砕けよ、金剛咆哮!」と咆哮を重ねていく。木刀のような硬さの太刀が、震えながら弾かれていった。
稲荷は分身を展開し、敵の陣形をかき乱す。「白狐の幻惑、今宵も冴えておるのじゃ!」四方から幻影が殺到し、敵の連携が瞬く間に崩れていく。
「見事なものだ」壮年の男は、防戦一方になりながらも笑みを崩さなかった。「だが、我らも引くわけにはいかぬ」
宵は、その激しい戦いを目の当たりにして、思わず声を漏らした。
「わたしのために、こんな……」
「今更でしょ」紡樹が隣で言った。「もう、宵さんは敵じゃない。それだけのことだよ」
結樹は少し離れた場所で、その光景を興味深そうに眺めていた。
「――面白い。歴史が動く瞬間って、いつもこういう顔をしてるんだよね」
呟きとともに、結樹の周囲にも黒い靄が立ちのぼり始めた。
「僕も、少しだけ手を貸そうか。……借りを作るのは、性に合わないけどさ」




