第三十一話 不動ヶ滝、轟く水音
鳥居渡りの光が収まると、耳をつんざくような水音が真っ先に飛び込んできた。
切り立った崖の中腹、白い飛沫を上げて滝が落ちている。その脇に、朱塗りの小さな不動堂が、ひっそりと建っていた。
「うわ、水しぶきすごいであります!」阿形が声を張り上げる。
「足元、滑りやすいので気をつけてください」吽形が冷静に注意を促した。だが、その目はまっすぐ滝を見据えたまま動かない。
「不動明王の霊気、我も覚えがあるぞ」密迹が腕を組んで唸った。「仁王と不動、共に仏の教えを守る者同士。……この地には、思うところがありそうだな」
「吽形さん、どうかしましたか」鏑木が尋ねると、吽形は静かに答えた。
「……懐かしい、気がするんです。理由は自分でも分かりませんが」
不動堂の扉は、長年閉ざされたままだったのか、蔦が絡みついていた。紡樹がそっと手を触れると、朱印帳の墨側のページが、微かに反応して熱を帯びた。
「ここ、間違いなく由緒が眠ってる」
「発動配信システム、待機状態にしておきますね」鏑木が端末を操作しながら言った。「狐塚稲荷社での一件、機構内でもかなり話題になっているので」
「待て」
低い声が、滝の轟音を割って響いた。
見ると、堂の陰から、白装束に身を包んだ男が姿を現した。手には錫杖、額には修験者の兜巾。眼光は、滝の水しぶきよりも鋭かった。全身から立ち上る気配だけで、並みの相手でないことが分かる。
「不動明王の御座す(おわす)聖域に、無断で立ち入るとは……相応の覚悟はあるのだろうな」
紡樹たちは、思わず身構えた。狐塚稲荷社での再現のような緊張感が、再びその場を包んでいく。
「由緒管理機構の正式な訪問許可は――」
鏑木が慌てて身分証を取り出そうとするが、男はそれを一瞥もせずに遮った。
「紙切れの話をしているのではない。この地の行を乗り越えられるかどうか、その一点のみを問うている」
男は錫杖を軽く鳴らした。それだけで、滝の水量が一段と激しさを増したように見えた。
「我が名は、行者・不動丸。……力を示せ。話はそれからだ」
吽形が、静かに一歩前へ出た。その瞳には、初めて見せる強い光が宿っていた。
「――望むところです」




