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第二十七話 裁定、そして旅立ちへ



聴聞の再開は、休廷から五日後だった。


今回、傍聴席に宵の姿はなかった。常宮の判断で、しばらくは静養に専念させる、という通達だけが届いていた。紡樹は少し寂しさを覚えたが、今は仕方のないことだと自分に言い聞かせた。


「本日をもって、豊田紡樹殿に関する聴聞の裁定を下します」


議長の声は、前回よりも幾分か穏やかだった。


紡樹は、膝の上で拳を握りしめ、その言葉を待った。


「これまでの証言、そして貴殿自身の由緒力の在り方を鑑み……由緒管理機構は、貴殿を正式な適性者として認定します」


室内に、小さくどよめきが起きた。紡樹は、思わず息を吐いた。


「――ただし」


議長が続ける。紡樹は再び身構えた。


「条件がひとつあります。三年前の前例――氷室冴殿の一件では、明確な指針がなかったばかりに、混乱の中で当人を見失う結果となりました。……同じ過ちは、二度と繰り返せません」


議長は、紡樹をまっすぐに見据えた。


「貴殿には今後、機構が指定する各地の由緒ある社寺を巡り、由緒を正しく理解した上でその力を示していただきます。これは処罰ではなく、貴殿という前例を、今度こそきちんとした記録として残すための試みです」


紡樹は、その言葉の意味を噛みしめた。自分が今度こそ、道半ばで消えてしまわないように。そして、いつか氷室冴のような人が現れた時に、迷わず正しく導けるように。


傍聴席の祖父が、目元を押さえているのが見えた。孫の未来が、ようやく明確な道として示されたことに、安堵しているのだろう。


「――謹んで、お受けします」


紡樹は、深く頭を下げた。


槌の音が、今度は前回よりずっと軽やかに響いた。


聴聞室を出ると、扉の外で待っていた仲間たちが、一斉に歓声を上げた。


「やりました! 俺たち、認めてもらえましたよね!?」阿形が飛び跳ねる。


「条件付き、ですけどね」吽形が冷静に付け加えつつも、その口元は緩んでいた。


「これで晴れて、旅ができるのじゃな」稲荷が嬉しそうに言った。


「うむ! ならば早速、行き先を決めねばな!」密迹が拳を打ち鳴らす。


そこへ、鏑木が書類の束を抱えて歩み寄ってきた。


「おめでとうございます、豊田さん。……早速で悪いんですが、最初の訪問先の候補、もういくつか用意してあります」


鏑木は、悪戯っぽく微笑んだ。


「腕が鳴りますね。担当官として、しっかりお供させていただきます」


紡樹は、透明な鳥居を仰ぎ見た。聴聞という長いトンネルの先に、新しい道が続いている。仲間たちと、そして鏑木と共に、由緒を紐解く旅が――今、始まろうとしていた。


宵のこと、氷室冴のこと、那羅延のこと。まだ答えの出ていない問いはいくつもある。だが、少なくとも今は、前を向いて歩き出せる。紡樹はそう信じて、鳥居の先に広がる空を見上げた。


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