第二十一話 宵、証言台に立つ
議長の問いが、静かな部屋の中に落ちた。紡樹は膝の上で拳を握りしめ、ゆっくりと息を吐いた。
「由緒力について、詳しい説明を、か……」
紡樹は一度言葉を切り、頭の中を整理した。抽象的な理屈だけで語っても、きっと伝わらない。手のひらに、じんわりと汗が滲むのを感じた。
「うまく言葉にするより、実際にあったことを話した方が早いと思います。……二週間ほど前、顕れの常宮の鈴木葵さんと本田宵さんが、僕のところへいらっしゃいました」
議長の眉が、わずかに動いた。幹部たちの間にも、小さくざわめきが走る。
「本田宵殿の祓いを、貴殿が無効化した、という一件ですね。報告は受けています」
「はい。……本田さんの技は、僕の力の『仏教』部分だけを狙って消す、とても精密なものでした。でも僕は、伊勢の神宮の内宮と外宮が両部神道でどう解釈されてきたか――神と仏が、もともとひとつのものとして語られてきた歴史を思い出して、その理屈を、そのまま盾にしたんです」
「理屈を、盾に……?」議長が繰り返した。
「神仏を引き剥がすことの方が、本来は不自然なんだって。僕が本気でそう理解して、否定したことで、技が効かなくなったんだと思います。……力業でも、才能でもありません。ただ、正しく知っていたから、負けなかった。それだけです」
自分で言いながら、紡樹はどこか妙な感覚に包まれていた。誰かに向けて由緒を語ることは、もう何百回もやってきたはずなのに、この場ではひとつひとつの言葉が、いつもよりずっと重く感じられた。
室内が、しんと静まり返った。誰かが、小さく息を呑む音がした。
議長は手元の資料をめくりながら、傍聴席に視線を向けた。
「本田宵殿。当事者として、事実確認をお願いできますか」
名指しされた宵が、ゆっくりと立ち上がった。白い狩衣の裾が、かすかに揺れる。周囲の幹部たちが、興味深そうに彼女へと視線を集めた。常宮の技が正面から破られたという話は、この場にいる誰にとっても他人事ではなかった。
紡樹は、思わず息を詰めた。ここで宵が何を語るかによって、聴聞の流れは大きく変わるかもしれない。常宮の技を「無効化された」と正直に認めるのか、それとも――
宵は一度、紡樹の方に視線をやった。その目に浮かんでいたのは、敵意でも、迷いだけでもない、もっと静かな何かだった。それから、まっすぐに議長席へと向き直った。
「事実です。わたしの祓いは、正面から打ち消されました」
はっきりとした声だった。動揺も、誤魔化しもない。幹部たちの間に、驚きの気配が広がった。常宮の巫女が、自らの敗北をこの場であっさりと認めるとは、誰も予想していなかったのだろう。
「言い訳をするつもりはありません。ただ、ひとつだけ申し添えるなら……」
宵は、そこで一度言葉を止めた。傍聴席の祖父が、身を乗り出すようにして耳を澄ませている。紡樹も、胸の奥で心臓が大きく鳴るのを感じていた。
「あの時、わたしが感じたのは、敗北ではありませんでした。もっと別の――」




