楽園の完成と、甘すぎる包囲網の始まり
魔境、改め『ハルト伯爵領』の夜は、世界で最も明るく、そして静かだった。
窓の外を見下ろせば、かつての毒沼は透き通った水が流れる運河となり、そこを商船が静かに行き交っている。立ち並ぶ石造りの街並みからは、夜遅くまで営業している食堂や酒場の明かりが溢れ、領民たちの笑い声が風に乗って微かに届いてくる。
完璧なインフラ。尽きることのない富。そして、絶対的な安全。
この魔境は、わずか一月ほどで王都を凌駕する「世界最大の都市」への第一歩を、確実に踏み出していた。
「……ふぅ。ようやく、ここまで来たな」
領主の館、最上階の自室。
俺は二重に鍵をかけたドアを確認してから、今日一日俺を苦しめていた「領主の服」を全て脱ぎ捨てた。
シャツ、ズボン、そして靴下。全てのデバフを解除し、俺は真っ白なトランクス一枚――完全なるパンイチへと戻る。
素肌を撫でる涼やかな夜風。
10万年のループという地獄を乗り越え、俺が欲しかったのはこれだ。誰にも邪魔されず、ただパンイチで夜景を眺めながら、明日何をするかを、あるいは何もしないかを決める自由。
「俺のスローライフ、最高に上々じゃねぇか……」
俺は冷えた果実水を片手に、満足げに笑った。
セレーナが街を回し、アリアが胃袋を満たし、リナが癒やしてくれる。
これ以上の楽園が、この世のどこにあるというのか。
――カチャッ。
背後で、絶望的なほどに軽やかな「解錠の音」が響いた。
「な……っ!?」
俺が跳ね起きると同時に、重厚なマホガニーのドアがゆっくりと開かれた。
そこには、三人の少女が立っていた。
セレーナ、アリア、リナ。
彼女たちはなぜか、普段の服ではなく、肌を大胆に露出させた薄いシルクの寝間着を纏っていた。
「……ハルト様。鍵をかけて安心していらっしゃるところを失礼しますわ。わたくし、この館の全権を任されている『頭脳』ですの。マスターキーの一本や二本、持っていて当然でしょう?」
セレーナが、艶やかな黒髪をかき上げながら不敵に微笑む。その瞳は、昨夜の夢を経て、見たこともないほど深く、暗い愛情に濡れていた。
「ちょっとハルト、そんな情けない顔しないの。あんたのために、今夜は特別に体力をつける夜食を持ってきたんだから」
アリアが、盆に乗せたスープを机に置く。だが、その目はスープではなく、俺のパンイチの肉体を隅々まで舐めるように見つめていた。
「ふぇぇ……っ、ハルトさん……。私、もう……我慢、できません……っ。ハルトさんを、私たちが、一つ残らず……っ」
リナは、潤んだ瞳でふらふらと俺に近づき、俺の腕ではなく、隣に立つセレーナの腕をぎゅっと抱きしめた。
「え……?」
俺は、その光景に固まった。
いつもなら「ハルトの隣は私の場所!」と争い始めるはずの三人が、今は互いに寄り添い、百合の花が咲き乱れるような濃密で美しい距離感でいちゃついている。
セレーナはリナの銀髪を優しく撫で、リナはその手のひらにうっとりと頬を寄せる。アリアはセレーナの背中に腕を回し、まるで姉妹のような親密さで耳元に何かを囁いた。
「……なんだよ、お前ら。急に仲良くなって……」
「ええ、協力することにいたしましたの。ハルト様を、永遠にこの楽園の王として繋ぎ止めるために」
セレーナが、俺のベッドに腰を下ろした。その隣にアリアとリナが、互いに寄り添い合いながら座る。
少女たちの肌が重なり合い、そのいちゃいちゃとした光景は目の毒以外の何物でもない。だが、その中心にある温度は、氷のように冷徹で、炎のように熱い『決意』だった。
「ハルト。この街が本当の『国』になるために、足りないものが一つだけあるの。わかる?」
アリアが、俺のトランクスの裾を指先でツン、と突いた。
「……金か? それとも、さらなる防衛兵器か?」
「いいえ。……『ハルト様の血を継ぐ、次世代の象徴』ですわ」
セレーナの言葉に、俺は心臓が止まりそうになった。
血を継ぐ。次世代。……つまり。
「子作り……計画、の第一歩……です、ハルトさん……っ」
リナが、セレーナの胸元に顔を埋めたまま、上目遣いで俺を射抜いた。
三人は、俺を取り囲むように立ち上がり、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
「一人で貴方を奪い合っていては、貴方はいつか消えてしまう。……だから、私たちは決めましたの。三人で、貴方を共有し、三人で、貴方を徹底的に甘やかし、三人で、貴方の子供を授かる。……これが、私たちの導き出した、10万年越しの『正解』ですわ」
セレーナが俺の首筋に腕を回し、アリアが俺の胸板に手のひらを滑らせる。そしてリナが、俺の足元に跪き、パンイチの太ももに顔を寄せた。
「待て……っ、早すぎるだろ! 俺はまだ、スローライフを楽しみたいんだよ!」
「ええ、存分に楽しんでいただきますわ。……わたくしたちと、このベッドの上で、永遠に」
セレーナの唇が、俺の耳元で甘く囁く。
アリアとリナが、まるでお互いの愛を確認し合うように、俺を挟んで唇を重ね、そのまま俺への愛撫へと繋げていく。
三人の美少女が、百合のような親密さで絡み合いながら、一人の男を、その魂の髄まで搾り取ろうと包囲する。
10万年という時間が生み出した、究極の執着。
俺のパンイチの肉体は、彼女たちの柔らかな肌と、逃げ場のない甘い香りに完全に飲み込まれていった。
「あー……っ、クソッ、これが俺の望んだスローライフなのかよ……っ!」
悲鳴のような俺の呟きは、少女たちの歓喜の吐息にかき消される。
魔境が世界最大の楽園へと成長していくその夜。
建国の勇者・九条春人の、貞操を懸けた本当の戦いが――そして、甘く重たい『子作り同盟』による支配が、幕を開けたのだった。




