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十万年の終着点と、パンイチ領主の永遠なる楽園

「待て……っ、早すぎるだろ! 俺はまだ、スローライフを楽しみたいんだよ!」


迫り来る三人の美少女――セレーナ、アリア、リナの包囲網から逃れるため、俺はインベントリから『絶空の神靴』を取り出そうとした。神をも置き去りにする速度で、この甘すぎる、そして危険すぎる空間から一時撤退するためだ。

 魔王の凶刃も、システムのバグが放つ死の閃光も躱してきた俺の反射神経。それが、今日だけは完全に後れを取った。


「無駄ですわ、ハルト様。貴方が逃げ出すタイミングも、その足さばきも、全て『計算済み』です」


セレーナが優雅に指先を鳴らすと同時に、部屋の窓という窓、ドアというドアに、幾重もの強固な魔力障壁が展開された。10万年のループの中で、俺の戦い方や逃げ癖を最も間近で、最も冷静に分析してきた彼女の頭脳が、俺の思考を完全に先読みして退路を塞いだのだ。

 薄いシルクのネグリジェを纏ったセレーナが一歩踏み出すたび、彼女の艶やかな黒髪から、頭がクラクラするような甘い香りが漂ってくる。


「……っ、セレーナ、お前……」


「諦めなさい、ハルト。あんたがどんなに強くたって、毎日私の作ったご飯を食べてるんだから、胃袋も体も、とっくに私が握ってるのよ。……ほら、大人しく私の一生のお世話になりなさい」


背後から、アリアが俺の胸元に両手を回し、逃げられないように体重をかけてきた。

 普段の元気なエプロン姿からは想像もつかない、大胆に肩と胸元が露出した真紅の寝間着。背中に押し当てられる、彼女の驚くほど豊かで柔らかな双丘の感触と、ドクン、ドクンと早鐘を打つ心臓の音が、パンイチの素肌越しに直接伝わってくる。


「ふぇぇ……っ、ハルトさん……。もう、一人で背負わないでください。……これからは、私たちが三人で、ハルトさんの痛みを全部、とろけるような愛に変えてあげますから……っ」


リナの震える腕が、俺の腰にしっかりと、すがりつくように抱きついた。

 透けるような純白の布地越しに、彼女の熱を帯びた吐息が俺の腹筋を撫でる。聖女としての清らかな魔力が、今はひたすらに甘く、ねっとりとした媚薬のように俺の体内へと流れ込んできた。


頭脳で退路を絶たれ、胃袋(と物理的な力)で拘束され、魔法で体の芯から溶かされる。

 三人の極上の肌の温もりと、むせ返るような雌の匂いが、逃げ場のないベッドルームを完全に支配していた。


彼女たちの瞳の奥にあるのは、かつてのループで見たような絶望の涙でも、死の恐怖でもない。

 ただひたすらに重く、甘く、純粋で、そして狂気じみた『愛』と『独占欲』だけだった。


(……ああ、そうか)


俺は、抵抗しようとしていた体の力を、ふっと抜いた。

 10万年だ。

 この三人の笑顔を見るために、誰も死なないこのくだらない夜を迎えるために、俺は数億回死んで、神殺しの力を手に入れたんだ。


冷たい泥水の中で這いつくばった記憶。自分の腕が千切れる痛み。彼女たちの亡骸を抱きしめて咆哮した、血の滲むような絶望の夜。

 そんな地獄を永遠に繰り返してきた俺が、今、ふかふかのベッドの上で、最も愛おしい三人の少女に体中を撫で回され、その全てを欲しがられている。


これ以上の『真エンディング(リザルト画面)』が、この世のどこにあるっていうんだ。


「……ははっ。魔王にもシステムのバグにも勝ったのに。お前ら三人には、最初から勝てる気しなかったよ」


俺が苦笑しながら両手を上げ、完全に降伏の意思を示すと、三人の少女は顔を見合わせ、夜に咲く花のように艶やかに、そして嬉しそうに微笑んだ。


「当然ですわ。わたくしたちの頭脳と胃袋と癒やしの連携は、世界最強ですから」

「もう絶対に逃がさないからね、私たちの王様……っ」

「えへへ……っ、ハルトさん、大好き、大好きです……っ!」


俺がベッドに仰向けに倒れ込むと同時に、三人の柔らかな体が、俺の上へと折り重なってきた。

 セレーナの冷たく滑らかな指先が、俺の胸板から腹筋へと這い、熱を帯びた唇が俺の首筋に甘い印を刻み込む。

 アリアは俺の唇を塞ぎ、今まで我慢していた想いを全てぶつけるように、深く、何度も舌を絡ませてきた。彼女の甘い唾液と、俺を求める熱い吐息が脳を痺れさせる。

 そしてリナは、俺の足に自分の白い脚を絡ませながら、セレーナの頬に自らの唇を寄せた。


「セレーナさん……っ、ハルトさん、すごく熱いです……っ」

「ええ、リナ。ハルト様の全てを、三人で隅々まで味わい尽くしましょう。……アリアさんも、独り占めは駄目ですわよ?」

「ふふっ、わかってるわよ。……ねえハルト、私たち三人がかりで、あんたが泣いて許しを乞うまで、朝までずっと絞り尽くしてあげるから覚悟しなさい……っ」


俺の体の上で、ヒロインたちが互いの唇を重ね合い、肌を擦り合わせる。

 百合の花が咲き乱れるような、退廃的で、美しすぎる少女たちの情事。その中心で、彼女たちの重すぎる愛欲の全てが、俺というただ一人の男へと注ぎ込まれていく。


「あー……っ、クソッ。お手柔らかに頼むぜ……俺の、可愛いお姫様たち……っ」


俺の呟きは、セレーナとアリア、そしてリナの三方向から降ってくる濃厚なキスによって、完全に塞がれた。

 シルクの布擦れの音、甘い吐息、そして肌と肌が吸い付くような水音だけが、夜の魔境に静かに響き渡る。

 10万年の永きに渡る俺の孤独な戦いは、彼女たちの途方もなく重たくて、とろけるほどに甘い愛欲の沼に沈み込み、ついに本当の終わりを迎えたのだった。


◆ ◆ ◆


――それから、数年の月日が流れた。


かつて『魔境』と呼ばれた死の土地は、今や世界最大の独立国家『ハルト帝国』として、大陸の中心に絶対的な威容を誇って君臨していた。

 神の城壁に守られ、黄金の作物が実り、全ての民が腹いっぱいの飯を食って笑い合う、正真正銘の地上の楽園。他国からの干渉も、魔獣の脅威も、この国には一切届かない。


そして、その帝国を治めるのは、規格外の力を持つ皇帝と、彼を支え、時には彼以上に強い絆で結ばれた『三人の美しき皇妃』たちだ。

 彼女たちの見事な連携(と、夜な夜な繰り広げられる四人での濃密ないちゃいちゃ)によって、国は完璧に統治されている。

 皇帝自身はほとんど執務室に出ることもなく、悠々自適なスローライフを送っているという噂は、もはや世界中の常識となっていた。


「……ふぅ。今日もいい天気だな」


帝城の最上階。

 俺は冷えた果実水を飲みながら、バルコニーから見渡す限りの豊かな街並みを見下ろしていた。

 着ているのは、相変わらず真っ白なトランクス一枚。

 皇帝になろうが、国がどれだけデカくなろうが、俺のこの『完全なるパンイチスタイル』だけは絶対に変わらない。


「パパー! 早く来てー! アリアお母様が、すっごく大きなハンバーグ焼いてくれたのー!」

「こら、廊下を走らないの。ハルト様、お昼の準備ができましたわよ。リナも、貴方の肩を揉むために待ち構えておりますわ」


部屋の奥から、俺の愛する子供の無邪気な声と、すっかり母親の顔になったセレーナの優しい声が聞こえてくる。

 あの夜を境に、彼女たちの俺への「激重な愛」は消えるどころか、家族という確かな絆を得て、さらに深く、大きく育っている。

 毎晩のように三人にベッドへ引きずり込まれるのは体力的に少々キツいが……まあ、俺には10万年鍛え上げたカンストステータスがある。家族サービスくらい、余裕でこなしてやらなきゃな。


「おう、今行く!」


俺はパンイチのまま振り返り、誰もが羨む世界一の楽園へと、最高の笑顔で歩き出した。


10万年の絶望を乗り越えて手に入れた、ちょっと重たくて、最高に幸せな日々。

 俺の最強スローライフは、今日も、そしてこれからも、永遠に上々だ。

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