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魔境豊穣祭と、王都を超える楽園の証明

ドォォォォォォンッ!!


夜空に、色鮮やかな大輪の魔法花火が打ち上がった。

 俺が昨日、ちょっとその辺の岩山をワンパンして掘り出してきた特大の『煌炎の魔石』を打ち上げ筒にセットし、リナがタイミング良く魔力を流し込んで起爆させた特製品だ。

 腹の底まで響く心地よい爆音と共に、魔境の空が真昼のように明るく照らし出される。


「「「うおおおおおおおおっ!! ハルト伯爵、万歳!! 魔境、最高おおおおおっ!!」」」


数万人の領民たちが一斉に歓声を上げ、ジョッキを掲げて乾杯した。

 今日から三日間にわたって開催される『第一回・魔境豊穣祭』。

 中央広場には、俺が『即席邸宅』の巻物でポン出しした巨大なステージが組まれ、周囲には無数の屋台が立ち並んでいる。


「ほらほら、どんどん焼くわよ! こっちは特級ベヒーモスの串焼き! そっちは黄金リンゴの果実水ね! 行列の横入りは容赦なく出禁にするから、ちゃんと並びなさい!」


広場で一番の熱気を放っているのは、当然ながらアリアが仕切る『黎明の宿』の特設巨大屋台だ。

 俺が散歩ついでに狩ってきた神話クラスの魔獣の肉が、アリアの絶妙な火加減と特製スパイスによって、誰もが頬を落とす極上の屋台飯へと変貌している。

 領民たちはその美味さに涙を流し、腹の底から笑い合いながら祭りの熱狂に身を委ねていた。


完璧に舗装された清潔な石畳。

 『永久浄化の聖杯』から引かれた、どこを捻っても出てくる美味い聖水。

 そして、空を覆うほどの巨大な結界と、絶対不落の『神意の絶壁(城壁)』に守られた、確かな安全。

 長年の戦乱や重税から逃げ出してきた彼らにとって、衣食住が全て最高レベルで保証されたこの魔境は、もはやお伽話の中の『世界一の楽園』そのものだった。


◆ ◆ ◆


一方で、そんな熱狂の渦から少し離れたVIP用のテラス席では、王都や近隣の領地からやってきた「視察団」の貴族や役人たちが、青ざめた顔でガタガタと震えていた。


「……ありえない。なんだ、この街は。ここは、猛毒と魔獣に支配された南の最果てだったはずだぞ……っ!?」


王都から派遣された視察団の長である侯爵は、手にしたワイングラスを取り落としそうになりながら眼下の光景を凝視した。

 彼らがこの地へ足を運んだのは、ただの嫌がらせと粗探しのためだ。「ハルト伯爵が魔境で狂った政策を掲げて自滅している」という報告をまとめ、彼を王都から完全に追放する口実を作るつもりだったのだ。


だが、現実は彼らの想像を遥かに超え、完全に破綻していた。


「侯爵閣下! ほ、報告いたします! あ、あの街を囲む巨大な城壁……あれは単なる石ではありません! 北の聖域で失われたとされる神具『神盾イージス』が素材として組み込まれており、王都の城壁の百倍以上の強度があります!」


「農業区画の調査も終わりました! 信じられません……黄金のリンゴが雑草のように生い茂り、見たこともない最高級の作物が無限に収穫されています! 土壌から、国宝級の『原初の豊穣土』の反応が……っ!」


「さらに、領民たちの活気が異常です! 誰一人として飢えておらず、治安は完璧。あの屋台で平然と焼かれている肉、あれは我々が国軍を動かしても倒せない特級魔獣の肉ですぞ!」


次々と飛び込んでくる絶望的バグじみたな報告に、視察団の面々は言葉を失った。


インフラ、防衛力、食料自給率、領民の士気。

 どれを取っても、歴史ある王都を完全に凌駕している。ここは辺境の開拓村などではない。すでに完成された、世界で最も豊かで恐ろしい「独立国家」だ。


「……負けた。我々は、最初から相手の次元を読み違えていたのだ」

 侯爵は、ガクリと膝から崩れ落ちた。

「数年……いや、この異常な発展速度なら、わずか一年も経たずに、この魔境が世界の経済と文化の中心になる。王都は、この街にすがりつかなければ生きていけなくなるぞ……!」


彼らはハルトという男の「規格外」を、この日、世界の真理として骨の髄まで理解させられたのだった。


◆ ◆ ◆


「ハルト様、他領の視察団がすっかり意気消沈して帰っていくようですわ。……ふふっ、わたくしの計算通りの見事な『見せつけ』でしたね」


祭りの熱狂を見下ろす領主の館の最上階。

 セレーナが、俺の隣で優雅に扇子を揺らしながら報告してきた。


「お前、性格悪いな。まあ、これでしばらくは王都の連中もちょっかいを出してこないだろ」


「ええ。全ては、貴方がこの街でゆっくりと過ごすためですわ」

 セレーナはそう言って、俺の腕にそっと自分の腕を絡ませてきた。


「あーっ! セレーナ、またハルトにひっついて! ほらハルト、あっちの屋台で一番美味しいところ取っておいたから、一緒に食べに行くわよ!」

 仕事を抜け出してきたアリアが、油断ならない顔で俺の反対側の腕に抱きつく。


「ふぇぇ……っ、ハルトさん、だめです……っ! 今日は、私と一緒に花火を見るって約束しましたもん……っ。絶対に、譲りません……っ!」

 さらに背後から、リナが俺の背中にぴたりと張り付いてきた。


三方向からの激重なプレッシャー。

 俺は昨夜の「お世話合戦」の疲労を思い出し、背筋に冷や汗をかいた。このままじゃ、祭りの熱気よりも先に、彼女たちの重すぎる愛に焼き尽くされてしまう。


「……あー、ごめん。俺、ちょっと忘れ物したわ」


俺は神速のステップ(10万年鍛え上げたガチの回避術)で三人の包囲網を抜け出すと、そのまま最上階のバルコニーから、夜の闇へと飛び降りた。


「あっ!? ちょっとハルトー!!」

「ハルト様!?」

「ハルトさぁぁん!」


三人の声が遠ざかっていくのを聞きながら、俺は館の屋根の上へと着地した。

 そして、誰にも見られない特等席で、窮屈な領主の服をバサバサと脱ぎ捨てる。


「ふぅぅぅ……。やっぱり、祭りは『これ』に限るぜ」


真っ白なトランクス一枚。完全なるパンイチ。

 夜風が素肌を撫でる最高の解放感の中、俺は夜空に咲く巨大な魔法花火を見上げた。

 眼下では数万人の領民が笑い合い、俺の作った街が、世界一の楽園として輝いている。


「ま、色々面倒なことも多いが……悪くないスローライフだな」


パンイチの領主は、ヒロインたちの愛から一時だけ逃れ、最高の気分で魔境の夜を満喫するのだった。

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